(最高裁判決について)
最高裁判所第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は、平成23年2月15日、歯科技工の海外委託を放置している国の責任を問うた歯科技工海外委託問題訴訟について、上告を棄却し、上告受理申立を受理しないとの不当な判決を下した。私たちは、最高裁判所のこの不当な判決に対して強く抗議する。
日本国内では、歯科技工士法により、歯科医師又は歯科技工士としての資格を有しない者(無資格者)による歯科技工が禁じられている。ところが、歯科技工の海外委託の場合、無資格者による歯科技工が放置されている。しかも、薬事法の適用がある日本と異なり、歯科材料の安全性も制度的に保障されていない。
このように、歯科技工の海外委託には、国民に対する安全かつ良質な歯科治療の実現の観点から多くの問題がある。ところが、国民の健康を守るべき責務を有する国は、十分な実態調査を行なわず、歯科技工の海外委託を認めた上でその責任を歯科医師に転嫁し、国としての施策は何もせず放置している状態であった。
このような国の姿勢は、無資格者による歯科技工を禁じている歯科技工士法に反し、歯科技工士制度を根底から崩壊させ、ひいては国民の歯科治療の安全性等を脅かすものといわざるをえない。
そこで、このような国の態度を改めさせるために、本訴訟は提起された。
最高裁判所は上告を棄却し上告受理の申立を受理しないとすることで、東京高等裁判所の判断を是認したが、東京高等裁判所の判断は、歯科技工の海外委託が歯科技工士法に違反するか否かという点について判断することなく、訴えの利益がないなどというように、訴訟の入り口論で退けた。したがって、本訴訟が敗訴したからといって、歯科技工の海外委託が適法であるとされたものではないことに留意すべきである。
私たちは、本訴訟の中で歯科技工の海外委託の実態と問題点を明らかにするとともに、広く世論にも訴えたことから、国会や地方議会などでも取り上げられるようになった。特に、海外で作製された補てつ物から発ガン性物質であるベリリウムが検出されるなど、歯科技工の海外委託の危険性が報道で取り上げられたことを機に、国民の中に広くこの問題についての関心が高まった。このことは、歯科技工の海外委託問題を解決するための意見書を採択した地方自治体が51議会に至るまでになったことに現れている。
本件訴訟は残念ながら敗訴したが、歯科技工の海外委託問題が未解決であることに変わりはない。歯科技工の海外委託が放置されることにより、国民の歯科治療の安全性を確保する制度的な保障である歯科技工士制度の根底が崩されるおそれがあること、国民の安全かつ良質な歯科治療が脅かされている状況は続いている。
私たちは、これまで本訟を支援してくれた多くの方々に感謝を申し上げるとともに、これからも、歯科技工の海外委託問題を解決するために、広く国民に対して歯科技工の海外委託問題の危険性を訴え続け、行政及び立法の場を含め、あらゆる場所でこの問題の解決のために引き続き努力する決意である。
平成23年2月21日
歯科技工海外委託問題訴訟原告団
団 長 脇 本 征 男
歯科技工海外委託問題訴訟弁護団
団 長 川 上 詩 朗
原告及び弁護団声明
23-2-21 最高裁 原告団及び弁護団声明.pdf
最高裁判決文
最高裁 決定 判決分.pdf