2009年12月24日

上告理由書

平成21年(行サ)第174号


 上告人        脇本征男         外79名
 被上告人        国



           上告理由書

               2009(平成21)年12月22日
 

     最高裁判所            御中

               上告人ら代理人 弁護士 工藤勇治        
                     同 弁護士 川上詩朗        
                     同 弁護士 岩崎泰一        

第1 はじめに
1 上告人らには「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益について国から不合理な差別を受けない権利(平等権)」(日本国憲法第14条1項・同25条1項)が憲法上保障されている。上告人らは控訴審において,国の対応は上告人らの上記権利の侵害である旨主張した。しかし,控訴審判決は,その点について何も判断していない。これは,理由不備にあたる。
2 また,控訴審判決は,上告人らの請求に対して,「具体的利益がない」として,公法上の当事者訴訟に関しては請求を却下し,国賠請求に関しては請求を棄却している。しかし,本件では国の対応により上告人らの上記平等権が侵害されている。したがって,控訴審判決は,日本国憲法第14条1項に違反乃至は同条項の解釈を誤ったものである。
  したがって,控訴審判決は破棄され,上告人の請求が認められるべきである。
  以下,順次論じる。

第2 歯科技工業務を独占的に行うことができる利益(日本国憲法第25条1項)

1 はじめに
  歯科技工士法第17条1項は「歯科医師または歯科技工士でなければ,業として歯科技工を行ってはならない。」と定める。この規定による歯科技工士資格を有しない者(無資格者)による歯科技工が禁じられた結果,歯科技工士には,歯科技工業務を独占することができる利益が認められた。この利益に関しては,歯科技工士法第17条1項の趣旨について日本国憲法第25条1項および同法第14条1項を合わせ解釈することにより,歯科技工士には,歯科技工業務を独占的に行うことができる利益について「国内外で差別されない権利」が憲法上保障されていると解するべきである。

  以下では,まず歯科技工業務を独占的に行うことができる利益が日本国憲法第25条1項から導かれる国民の「適正かつ安全な歯科医療を受ける権利」から導かれる利益であることを論じた後,項をあらためて,当該利益には国内外で差別されない権利が含まれていることを論じる。 
  
 2 健康を享受する権利(健康権)
(1) 社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)等
  「健康」が基本的人権であることは,1948年の世界保健機構(以下「WHO」という。)憲章で謳われて以来,国際社会において繰り返し確認されている。
  すなわち,上記WHO憲章前文は「すべての人が到達可能な最高水準の健康を享受することは基本的人権の一つである。」と謳っている。また,同年採択された世界人権宣言は,「すべての人は,衣食住,医療および必要な社会的施設等により,自己および家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利…を有する。」(世界人権宣言第25条1項)と規定する。
  また,1978年発効した経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第12条1項は「この規約の締結国は,全ての者が到達可能な最高水準の身体および精神の健康を享受する権利を有することを認める。」と規定している。この条項は,世界で初めて「健康を享受する権利(健康権)」を国際法的に効力ある公式文書で規定したものとされている(伊藤ちぢ代「国際機構の諸文書における『健康権』概念について」日本大学大学院総合社会情報研究科紀要第7号476頁)。日本国は,1979年9月,上記社会権規約を批准していることから,日本国が「健康権」を保持すべき責任のあることは明らかである。
  なお,国際社会においては,WHOのアルマ・アタ宣言(1978年),第1回ヘルスプロモーション会議でのオタワ憲章(1986年),第2回同会議でのアデレード勧告(1988年),第3回同会議でのサンドバール宣言(1991年),第4回同会議でのジャカルタ宣言(1997年),第5回同会議でのメキシコ宣言(2000年)等で「健康」が基本的人権であり,健康権保障の責任は国家にあることが繰り返し述べられている。
(2) 日本国憲法第25条1項および2項
  日本国憲法第25条は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(1項)」「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない(2項)」と定める。これらの規定は,上記社会権規約等とあいまって,国民に対して「健康を享受する権利(健康権)」を保障したものである。
  
3 適正かつ安全な歯科医療を受ける権利
  「健康とは,完全な肉体的,精神的および社会的に良好な状態であり,単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」とされている(WHO憲章前文)。本件は歯科医療に関する問題であるが,適正かつ安全な歯科医療が保障されてこそ,国民の健康が保たれる。したがって,国民には,「適正かつ安全な歯科医療を受ける権利」が「健康を享受する権利(健康権)」から導かれる具体的な権利として憲法上保障されている。

4 歯科技工業務を独占的に行うことができる利益
(1) 歯科医師法第1条は,歯科医師は,歯科医療および保健指導を掌ることによって「公衆衛生の向上および増進に寄与」し,もって「国民の健康な生活」の実現を目的としている。歯科医師法は,日本国憲法第25条1項および2項を受けて規定されたものである。したがって,歯科医師法を解釈するにあたっては,日本国憲法第25条1項および2項と関連させて一体のものとして解釈すべきである。
  そうだとすれば,ここに「国民の健康な生活」とは国民一般の健康という公衆衛生にとどまらず,国民個々人に認められた憲法上の権利である「適正かつ安全な歯科医療を受ける権利」を実現することも含まれていると解するべきである。
(2) 歯科技工士法第1条は,「歯科技工士の資格」を定めるとともに,「歯科技工の業務が適正に運用」されるよう規律し,もって「歯科医療の普及および向上に寄与する」ことを目的としている。
  その趣旨は,歯科技工の業務は,高度な技術と知識を必要とする専門的なものであるにもかかわらず,従来から何らの規制も行われずに野放しの状態であった。そのため,粗悪な補てつ物,充填物,矯正装置等が作られ,歯科治療に多大の支障を与えていた。そこで,歯科技工士の資格を定めてその資質の向上を図るとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し,歯科医師の業務を適正に補足させることにより,歯科医療の普及及び向上に寄与することにある(甲2号証)。  
(3) 歯科技工士制度の具体的内容は,次のとおりである。
ア 歯科技工とは,「特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物,充てん物又は矯正装置を作成し,修理し,又は加工すること」(ただし,歯科医師がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く)をいう(法2条1項)。前記のとおり,歯科技工は,高度に専門的な知識と技能を必要とするものであることから,それを野放しにすると粗悪品が生じ,患者の健康を害する危険性がある。そこで,法は,歯科技工士としての必要な知識及び技能について試験を行い(法11条),その試験に合格した者に対して厚生労働大臣が免許を与え(法3条),その免許を有する歯科技工士でなければ業として歯科技工を行ってはならないとし(法17条1項),それに違反した者に対しては刑罰を課すとした(法28条1号)。これにより,専門的知識と技能を有する歯科技工士に歯科技工の業務を独占させ,無資格者による歯科技工を禁じることにより,「国民の適正かつ安全な歯科治療を受ける権利」を保障しようとしたのである。

  この法の趣旨に照らせば,無資格者による歯科技工の禁止は歯科技工士制度の根幹をなす重要な法的要請であり,歯科技工が行われた場所が国内か海外かで異なる取扱をすべきではない。  
イ また,補てつ物等を装着することを伴う歯科治療は,通常,歯科医師が特定の患者の補てつ物等の作成を歯科技工士に指示をし,歯科技工士は歯科医師の指示に従って補てつ物等を作成し,歯科医師はその作成された補てつ物等を患者に装着させるというプロセスを経て行われる。従って,そもそも歯科医師の指示がなければ歯科技工を行うことができず,歯科医師の指示は歯科技工にとって必要不可欠なものである。そこで法は,歯科医師の指示が確実に行われ,歯科技工の業務が適正に運用されるために,指示書がなければ業として歯科技工を行ってはならず(法18条本文。但し,病院又は診療所内の場所において,かつ,患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基づいて行う場合はこの限りでない。),その違反者に対しては刑罰を課すこととした(法32条2号)。また,歯科技工の業務が必ず指示書に基づき行われることを確保するとともに,歯科技工の業務が指示書の通り行われたかどうかを後日確認できるように,歯科技工所等の管理者に指示書の保管義務を求め(法19条),その違反者に対しても刑罰を課すこととした(法32条3号)。
  この法の趣旨に照らせば,歯科医師から指示書が交付され,かつ,保存されることは,歯科技工士制度の根幹をなす重要な法的要請であり,それについて歯科技工が行われたのが国内か海外かで異なる取扱をするべきではない。
ウ また,法は歯科技工所に関する規定を設けている。すなわち,歯科技工所を開設した者は,管理者の氏名等を「歯科技工所の所在地の都道府県知事」に届け出るものとし(法21条1項),歯科技工所には管理者を置かなければならず(法22条),都道府県知事は,歯科技工所の構造設備が不完全であり,当該歯科技工所で作成等した補てつ物等が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは,その開設者に対して,相当の期間を定めて,その構造設備を改善すべき旨を命ずることができるとし(法24条),その命令に従わないときは,開設者に対して歯科技工所の使用を禁ずることができ(法25条),さらに都道府県知事は,必要があると認めるときは,歯科技工所の開設者若しくは管理者に対し,必要な報告を命じまたは当該吏員が立入検査することができる(法27条1項)など行政機関による一定の監督権を認めている。これらの規定は,歯科技工の業務が適正に運用されるためには,歯科技工士の身分(資格)と業務について規制するだけではなく,歯科技工所という施設の面からも規制を行うことが不可欠であるとの理由から設けられたものである。とりわけ,歯科技工所の開設は,歯科技工所の「所在地」の都道府県知事に届け出なければならないとされている(法21条)。すなわち,法は「所在地」の都道府県知事に対する届出により開設された歯科技工所においてのみ歯科技工を行わせるということを予定しているのであり,それ以外の場所での歯科技工を禁じていると解するのが相当である。従って,歯科技工所は日本国内に設置されることを当然に予定しているとともに,監督権限が及ばない海外に歯科技工所を設置することを禁じていると解すべきである。
(4) 歯科技工士法に関しても歯科医師法同様に,日本国憲法第25条1項および2項を受けて規定されたものである。したがって,歯科技工士法を解釈するにあたっては,日本国憲法第25条1項および2項と関連させて一体のものとして解釈すべきである。
  そうだとすれば,無資格者による歯科技工の禁止(歯科技工士法第17条1項)は,単に国民一般の健康増進という公衆衛生上の目的のみならず,個々の国民が憲法上の権利として保障されている「適正かつ安全な歯科医療を受ける権利」の実現のために設けられたものであると解すべきである。したがって,無資格者による歯科技工が禁止された結果,歯科技工士に認められた歯科技工業務を独占的に行うことができる利益についても,個々の国民の「適正かつ安全な歯科医療を受ける権利」から導かれた憲法上の規定に根拠のある利益であると解すべきである。

第3 国内外で差別されない権利(日本国憲法第14条1項)
 1 はじめに
(1) 日本国憲法第14条1項は「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において差別されない」と定める。この規定については,平等原則と平等権の二面性を持つと解されている(辻村みよ子「憲法第3版」183頁)。
  そして,平等を原則として捉える場合には実体的権利を併せて主張することが前提となる(どのような権利・利益の平等が害されたのかを前提にしたうえでその差別的取扱の合理性を問題とする)のに対し,平等権のみを問題とする場合にはこれと異なる結果が生じる点に注意が必要と指摘されている(前掲書183頁)。両者の違いとして紹介されている例として,例えば,男女別定年制などの性差別を女性の平等権侵害として立論する場合には,単に「男性と差別されない権利」が害されたことが問題になるため,男女とも35歳定年制は14条違反ではないが,実体的権利を問題にして労働権に関する差別と捉える場合は,60歳前後まで平等に働く権利など,権利内容の吟味が必要となると指摘されている(前掲書183頁)。
(2) 平等原則を問題とした場合,本件では実体的権利(利益)である「歯科技工業務を独占的におこなうことができる利益」と併せて平等権侵害を論じる必要がある。
  それに対して,平等権のみを問題とした場合,歯科技工業務を独占的に行うことができる利益については考慮することなく,端的に「国内外において差別されない権利(平等権)」の侵害が問題になる。
  なお,差別については,常に他との比較が問題となる。性別による差別では男性と女性,人種による差別では各人種間の比較が問題となるが,本件では国内と国外という地域間の比較が問題とされている。
(3) 以下では,まず本件が歯科技工士に保障された平等権侵害であることを論じ,その後平等原則違反でもあることを論じる。  

2 国内外で差別されない権利の保障
(1) 歯科技工士法が歯科技工士制度を設けた趣旨は,前記のとおり,歯科技工を野放しにすると粗悪品が横行し国民の健康が害される虞があることから,歯科技工士資格を設け,同資格を有しない者(無資格者)による歯科技工を禁じ(同法第17条1項),指示書に寄らない歯科技工を禁じる(同法第18条)等により,国民の「適正かつ安全な歯科医療をうける権利」を確保しようとしたのである。
  この趣旨に鑑みるならば,前記のとおり,無資格者による歯科技工の禁止は歯科技工士制度の根幹をなす重要な法的要請であり,歯科技工が行われた場所が国内か海外かで異なる取り扱いをすべきではない。
(2) このように,無資格者による歯科技工の禁止について歯科技工が行われた場所が国内か海外かで異なる取り扱いをすべきでないことは,歯科技工士法第17条1項の趣旨そのものからも導かれるものである。
  このように,無資格者による歯科技工の禁止の趣旨にはもともと国内外を問わず無資格者による歯科技工は禁じられるべきとの法的要請が含まれているが,日本国憲法第14条1項の平等権保障の趣旨も併せて解するならば,無資格者による歯科技工が禁止された結果,歯科技工士に認められる歯科技工業務独占の利益についても,国内外で差別されない利益(平等権)が含まれていると解することができるのであり,そうだとすれば,歯科技工士には歯科技工士法第17条1項および日本国憲法第14条1項に基づき,歯科技工業務を独占的に行うことができる利益について国内外で差別されない権利が保障されていると解するべきである。

3 国内外で差別されていること
  前記のとおり,国は,国内においては,無資格者による歯科技工を禁じており,厳格にその運用を行っている。しかし,国外については,歯科技工の海外委託においては無資格者による歯科技工が行われている蓋然性が高いにもかかわらず,国は,無資格者が歯科技工を行うことを容認することを前提として,平成17年9月8日「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」と題する通達(平成17年通達)を発するのみであとは放置をして何らの手だてもせず,もっぱら歯科医師への責任に委ねている。
  このように,無資格者による歯科技工に関する国の対応には,国内では厳格に禁じるのに対して国外では許容するという差別的取り扱いがなされている。その結果,無資格者による歯科技工が禁止された結果,歯科技工士に認められたところの,歯科技工業務を独占して行うことができる利益の保障に関しても,歯科技工が国内で行われる場合にはその利益が保障されているのに対して,国外で行われる場合にはその利益への脅威が生じるとの違いが生じている。
  この異なる取り扱いについて,合理的理由がなければ,それは不合理な差別にあたる。そこで,次に合理性の有無について検討する。  

4 合理性が認められないこと
(1) 歯科技工士法は,前記のとおり,無資格者による歯科技工を禁じることで粗悪品が流通するのを防ぎ,国民の健康を確保しようとしたのである。その趣旨は,国内外を問わず貫かれるべきである。したがって,原則として無資格者により歯科技工が行われている歯科技工の海外委託の場合,合理性が認められない。
(2) 他方,歯科技工士法は国外には適用されない。確かに,海外での歯科技工に同法を適用し,無資格者による歯科技工そのものを直接禁じることはできない。しかし,歯科技工が行われる場合には,@歯科医師の指示,A指示を受けた者による技工行為,B歯科技工物の歯科医師への交付,C歯科医師による歯科技工物の患者への装着というプロセスを必ず経る。このうち,歯科技工の海外委託の場合には,@BCはいずれも国内で行われる。したがって,前記歯科技工士制度の趣旨に鑑みるならば,歯科医師は無資格者に対して歯科技工を指示しないこと,無資格者により作成された歯科技工物を輸入を禁じること,無資格者により作成された歯科技工物を患者に装着しないことを,国内において歯科医師等に指導することは可能である。したがって,歯科技工士法は海外に適用されないことは,上記差別的取り扱いを合理化する理由にはなり得ない。
(3) また,国はこの差別的取り扱いを合理化する根拠として「当該行政庁の合理的裁量」を持ち出す(控訴審答弁書5頁)。しかし,行政庁の裁量が一般的には認められるとしても,裁量は絶対的無制限に認められるわけではない。行政庁の裁量といえども法律の範囲内で認められているものであるところ,歯科技工士法は前記のとおり無資格者による歯科技工を禁じているのであるから,無資格者による歯科技工が行われている海外での歯科技工を認めることは,授権された法(歯科技工士法)の範囲を逸脱するものといえる。したがって,「合理的裁量」があるからというだけでは,無資格者による歯科技工について,国内と海外とで異なる取り扱いをすることを合理化する根拠にはなり得ない。

5 平等権違反
  その他無資格者による歯科技工について,国内外で差別的取り扱いをすることを合理化する理由は見あたらない。したがって,無資格者による歯科技工について,国内外で異なる取り扱いをすることは,「国内外で差別されない権利(平等権)」を侵害するものとして憲法違反である。

6 平等原則違反
(1) 本件では平等原則違反も認められる。
  すなわち,上告人らには,「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益について国による不合理な差別を受けない権利」が保障されている。ここで「歯科技工業務を独占的に行うことのできる利益」は,前記のとおり,日本国憲法第25条1項に基づく国民の「適正かつ安全な歯科治療を受ける権利」(健康権)から導かれる憲法上の利益である。したがって,上記利益は極めて重要な利益であり,その利益を保障するにあたっては国内外で差別的取り扱いがなされてはならない。
(2) ところが,国は,国内では無資格者による歯科技工が厳格に禁止されているのに対して,国外での無資格者による歯科技工は容認している。しかも,前記のとおり,その異なる扱いを合理化する理由もない。したがって,かかる国の対応は,上告人に認められた「歯科技工業務を独占的に行うことのできる利益について不合理な差別を受けない権利」を侵害するものであり,平等原則に違反する。
  
第4 理由不備
1 控訴審での主張
  前記のとおり,歯科技工の海外委託に対する国の対応は,上告人に保障された「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益について不合理な差別を受けない権利(平等権)」(日本国憲法第14条1項)を侵害するものである。したがって,そのような平等権ないしは平等原則を内実とする歯科技工士の業務独占の地位の保全を侵害することであるから,その地位の保全の確認を求めるとともに,国賠法に基づく損害賠償請求を求めた(控訴人準備書面(1))。

2 控訴審判決の内容
  しかしながら,控訴審判決は,上告人らの上記平等権および平等原則違反を理由とする主張について全く判断をせずに上告人らの請求を退けた。これは理由不備にあたる。

第5 憲法違反乃至は憲法解釈の誤り
   前記のとおり,本件は平等権および平等原則違反が問題となる。ところが,控訴審判決はいずれも,平等権および平等原則違反であると認めることなく,上告人らの請求を退けた。したがって,控訴審判決には,憲法違反乃至は憲法解釈の誤りがある。

第6 まとめ
   以上から,控訴審判決には,理由不備,日本国憲法第14条1項違反乃至は同条項の解釈の誤りが認められる。
   したがって,控訴審判決は破棄され,上告人らの請求が認められるべきである。


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2009年08月21日

シンポを前に、控訴審結審報告

平成21年8月10日

控訴審結審報告

歯科医療を守る国民運動推進本部
   代 表  脇 本 征 男



 日頃は海外委託問題訴訟に対しまして、ご支援、ご協力を賜り、誠にありがとうございます。
おかげさまで、平成21年8月5日、東京高等裁判所における控訴審が結審致しました。
内容は、弁論が4回、進行協議(和解協議)が3回という充実した審議でありました。
 
 4月15日、第3回目の弁論が終了し、「今日で結審かなぁ」と思っていた矢先、「只今から別室に於いて進行協議を行いたいと思います。お時間はよろしいですか」という裁判長の発言で、弁護団と原告団はじめ満席の傍聴席が色めき立ったのです。

 別室で、控訴人側は弁護士2名と代表、被控訴人側は代理人5名、が裁判官3名と向かい合って着席し、裁判長から「このまま結審し、判決を言い渡したとしても国民の安心安全が保たれる補償は何も得られない。法律を抜きにしても、お互いの協議によってこの問題を解決する手だては無いものかを考えました。ご協力願えないでしょうか」。

 原告側としては、「寝耳に水」状態でした。更に、原告側と協議する裁判長の発言のなかに、「皆さん方が、此処まで懸命に努力されてきた訴訟の事実を、何とか意義あるものとして残してあげたい」と、何度となく重ねて言われました。
真摯に喜ぶと共に、一抹の期待がよぎるのも当然のことであります。
そして、弁護士と相談の結果、「求められるまま」に和解案を提案したのです。

 この問題を解決するために、有識者、歯科医療関係者、と国民・患者サイドの声を代弁する消費者団体関係者等による専門の検討機関を設置することを提案したのです。
三度に亘る進行協議は、裁判所の国側説得に殆どの時間が費やされたと言っても過言ではありません。その中で、暗に日技の正式な要請があれば応じても良いという厚生労働省の見解を引き出したのは、画期的な進展でした。

いずれにしても、当初、国側はこの裁判に於いて、又、裁判外でも、約束を取り付けること等は一切拒否するという態度でしたが、厚生労働省は、しかるべき業界団体(日技)が申し出れば応じるというところまで、前向きになった事は進歩です。
ところが、その日技に再三事情を説明し、「裁判外」でのお願いをしているにも拘わらず、話をすることさえ応じて頂け無いのが現状です。そこで、各都道府県技工士会にお願いして賛同支援を取り付け、それを持って日技にお願いしたらと言うことで、各技工士会に文書を送り、賛同のご返事を頂戴する方法をとらせて頂きました。

 当初、賛同頂いている会長方に各県技の賛同取りまとめをお願いしたのですが、あまりの反応の鈍さに、代表自ら「清水の舞台から飛び降りる気持ち」で全会長方に直接電話作戦を実践させて頂いた結果、現在まで35都県技会長の文書でのご賛同を得ることができました。又、歯科医療関係団体では、日歯、日技以外の7団体が賛同して頂きました。心底から満腔の敬意と感謝を申し上げます。

 最も感銘を受けたことは、相当の覚悟で緊張しながらの電話に対して、各県技の会長方は、どなたお一人として頭ごなしの露骨な抗議や、拒否反応は一県も無かったことです。賛同頂いた会長方は推して知るべし、敬意、賛辞、反省、激励の麗句の羅列には恐れ入りましたし、賛同頂けない会長方でも、「私自身は賛同なんだけど」と言われながら、無理からん日技の動向に気を遣って居られたことは事実でした。

 この事態を踏まえ、早急に日技と会見し、結審前に今一度進行協議の場での新たな展開を期待しつつ、再度7月末に弁護士の方から日技に対してこの事情説明のうえ会見を申し入れたところ、「時間の調整がつかず、お会いできない」というご返事です。
前代未聞の裁判所の意思仲介にも応じられない組織、組織47都道府県のうち35都県技の賛同支援の実態を伝えても、「話にも」応じない日技。断腸の想い。残念至極。
私たちは、法廷外での打つ手をひとまず断念せざるを得ず、裁判所に報告し隔靴掻痒(かっかそうよう)の想いで、8月5日の結審を迎えることとなったのです。

 このような運動をしていれば、非難、批判、誹謗中傷は覚悟の上ですが、先日、近畿地方のある県技の専務理事さんから、個人的なご意見をいただきました。


 脇本のとった行動は、最初から間違いだと言った後で、
「今までの日技の行動があっての一歯科技工士の立場が守られていると言うことは、ご理解いただけていますか。個人的に活動しても、最終的には日技を動かさなくては、どうしょうもないということもご理解いただけると思います。日技も、この問題は決してほっているわけではありません。最初から日技と協力してやってこれたらよかったですね。Kさんたちの歯科技工士への思いが、全歯科技工士が喜ぶ方向へむけられることを切に願います。」


 
ありがとうございました。あなたがた一部を除いては、全技工士は泣いております。
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2009年06月23日

 裁判速報及び今後の活動について


   裁判速報及び今後の活動について

 6月22日(月)東京高等裁判所において行われた進行協議は、
 話し合いが進展せず、平行線のまま打ち切りとなりました。
 次回の予定は8月5日(水)午後3:00から、
 東京高等裁判所817号室にて開廷されます。
 今後の裁判の見通しは予測がつきません。
 
本部としては、国民の安心安全にため、日本の歯科医療制度を守るため、 違法な海外委託問題について引き続き運動を拡大して参ります 平成19年6月22日提訴から2年の歳月が流れました。 また、昨年8月3日に行われたシンポジウムから1年が経ちました。

そこで、来る、8月23日(日)第2回 シンポジウムを開催いたします。


  −−−仮題−−−歯科技工海外委託ついての考え方−−−−


 パネリスト、会場、時間等、追って決まり次第ご報告致します。
 入場者200名規模を予定してます。
 今後も引き続きご支援ご協力をお願い申し上げます。
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2009年05月19日

控訴審第4回弁論報告書

控訴審第4回弁論報告書

事件名   平成20年(行コ)第347号 損害賠償等控訴事件
日 時   平成21年5月18日(月)午後3:00(晴)
法 廷   東京高等裁判所 第817号法廷

裁判官   裁判長    裁判官  山 ア   恒
  裁判官  山 本   博
裁判官 小 林 元 二
裁判官 藤 岡   淳
  書記官  櫻 庭 典 子


控訴人   脇本征男 ほか79名
控訴訴訟代理人弁護士  工 藤 勇 治
弁護士  川 上 詩 朗
       弁護士  岩 ア 泰 一

被控訴人  国    
被控訴人指定代理人    名 島 亮 卓
増 田 勝 義
山 本 浩 光
鳥 山 佳 則(代)
和 田 康 志(代) 

審理の進行状況
 
(メモによる記録から概略を再現します)

本日、法廷は開廷されず、3時より進行協議が別室で行われました。裁判官、控訴人(原告)、被控訴人(国)、で約1時間におよびましたが結論を得ることが出来ず、引き続き次回も進行協議を行うこととなりました。進行協議の内容については公開されていません。

次回の予定は6月22日午後4時。進行協議のみで法廷の予定ありません。

以上
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2009年04月16日

控訴審第三回弁論報告

平成21年4月16日
国に逆らうと 碌なことはない?
(控訴審第三回弁論報告) 
              
     違法入れ歯断固阻止・歯科医療を守る国民運動推進本部


                          代 表  脇 本 征 男
桜花散り、霞ヶ関を青嵐の神風が吹きまくった4月15日の控訴審第三回公判でした。
従来からの国の主張は、一貫して「歯科技工士には法律的に争訟の権利あたわず」でありました。
 一国民として、国が制定した法律に従って国家資格者となり、歯科医療従事者として忠実に業をなしてきた者が、現行法下における不合理是正のために訴えることもできない等、法治国家にはあるまじきことで、まさに放置国家のそしりを免れません。
 しかし、今回の公判程、「行動を起こして良かった」と思える時はありませんでした。
それは、私自身というよりも、長い間日陰者のように、常に歯科医師の後ろで忸怩たる思いと、差し出がましい生活にまで気遣い、黒子のように、晴れがましい言動を控えなければならなかった歯科技工士そのものの存在を思う気持ちであります。
 例え相手が国であっても、「おかしいことはおかしい」と堂々と物申す姿勢までがひし折られていた時代であったということで、自らの経験から猛省多とするところを踏まえて、他を責めているわけではありません。
 今回は、事態が予想外に大きく進展してきました。
私たちは、弁護士も含めて控訴審も今回が結審だろうと、「たか」をくくっておりました。
ところが、突然裁判長から『この事案について「進行協議」をしたいのですが時間はありますか』との発言があり、双方従うことになり、16階の別室へ移動したのです。
まず、裁判官3人の前に控訴人(弁護士2名と代表)と被控訴人(国側代理人5名)が座り、裁判長からの言葉がありました。
「法律の問題は抜きにしても、この事案を考えた時、このまま結審をしても、国民の安心安全が保たれる保障は何もありません。当裁判所としてはお互いの協議によって、何らかの進展が得られるような努力ができないかを考えました。ご協力願いませんか。」ということで、国側に最初に個別に協議し、続いて原告側、そしてまた国側と協議がもたれました。
 つまり、「このまま判決を下しても、何ら国民の健康不安要素が払拭されるわけでもなく、問題の本質は変わらないことから、裁判所の意思仲介で、お互い国民の健康を考えた方策を模索しよう。」ということであります。
大変な踏み込みようであり、原告側としてはありがたく願ってもないことでありました。
願わくば、国側、特に厚生労働省が同じ土俵に上がって頂くことを祈りたいと思います。
次回公判は5月18日(月)午後3時からとなりましたが、それまでに双方が努力して裁判所を通して協議することになりました。
そのために、原告弁護団を中心に、運動を展開しながら、あらゆる手段を講じて行きたいと考えております。
何よりも、特に川上詩朗弁護士の豊富な経験と強靭な精神力に加え、ぶれない原告団の意識とがマッチしての成果だと評価しております。
訴訟提起以来、本元の団体は抜きにしても、その他の団体や、個人の方々の温かいご支援、ご協力に対しましては深甚なる感謝の気持ちでいっぱいでございます。
今後の推移は、決して予断を許せるものではないと考えてはおりますが、人間として「許せないこと」には敢然と立ち向かう姿勢だけは持ち続けたいと念じております。
 今日あるのも、大に小に、表で裏で、それぞれが温かい真心をもって支えていただいた方々の、ありがたいご支援があったればこそでございます。
今後とも目的達成まで、より一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げまして報告とさせていただきます。ありがとうございます。
                            以上




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2009年04月15日

海外委託技工訴訟第三回控訴審

本日東京高裁にて海外委託技工訴訟第三回控訴審の公判が行われました。

まだ詳しい情報等は入ってきてはおりませんが、結審には至らず、裁判長は次回公判までに国側に反論を出すように伝えたとの事。

それと裁判長は、法律云々以前に、現実問題として国民の安心と安全の為に原告と被告(国)側が接点を持つように、という内容の言葉も残したようです。

詳しい内容は報告書があがってきましたらアップさせて頂きます。

次回第四回公判は5/18(月)15:00より
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2009年02月21日

裁判の意義

裁判の意義
                            代 表  脇 本 征 男

私は、歯科技工士の資格を取得して43年間、ただひたすら業に忠実に従事してきました。
今回、「海外委託は歯科技工士法違反」を唱えて裁判を提起し、全国80名の歯科技工士とともに戦ってまいりました。
「名誉が欲しいからだろう」「売名行為だ」「お金がほしいからだろう」「人騒がせな奴だ」等、「他人の口には戸は立てられない」とはいうものの現実の声として老爺の胸を突きます。

幸せに思うことは、この人以外はいないのではないかと思うくらい、忠実に依頼者側の心象を理解し、業の内容の充実、維持、発展を希求しつつ、真剣に目的達成を思考し、行動していただいている、人間的にも尊敬できる弁護士の川上詩朗先生にめぐり合えたことであります。
間違いなく、「大臣告示」を精査追求以来、8人目の先生であり、かけがえのない方です。
現在は、こちらが激を飛ばされるくらい、前向きに運命共同体で突き進んでおります。

 控訴審二回目公判に向かうため準備していた朝、一通の分厚い封書が届けられました。即開封すると、宮城県技副会長の熊谷美恵子さんからで、109筆の支援者署名簿とお手紙が添えてありました。紹介いたします。

 前略
海外歯科技工物委託訴訟の支援者名簿を同封致します。
会員の取引先医院の先生方が、会議の席上で署名して下さった名簿もあります。
私も、先日スタディーグループで発表しました。
知らない方も多く、危機感すら感じていない人も居ました。
目先の生活に追われ、周りが見えていないということでしょうね。
明日、県、歯科医師会の会長と技工士会会長と私とで、県議会の各派を回ります。
当県技は、諦めず、やれることはやろう。
会員には現状を理解して貰おうと、努力しております。
取り敢えず、集まった枚数だけは送ります。
今後も署名運動を続行しますので、よろしくお願い致します。
寒さ厳しい折から お身体 お大切に
             (社)宮城県歯科技工士会 熊谷美恵子

現在、おかげさまで支援者名簿ご署名者は、13、544筆を頂戴いたしております。
国に挙げて頂いた「意見書」は6県市会、国会議員による「意見主意書」は4件、国会質問2件、国会議員単独の「意見書」一件と各階各層に甚大な反響を及ぼしております。
 その他、全国38、000人の歯科医師で構成されている保団連の先生方は、我がこととして全面的に私たちに協力して頂き「海外委託阻止」運動を展開していただいております。
また、全国の技工士学校の加盟する全国歯科技工士教育協議会は、厚生労働大臣に対して「嘆願書」を提出いただいております。
さらに、15人以上の規模でラボ経営者の集まりである、日本歯科技工所協会では、「海外技工物の流入を絶対阻止」という基本姿勢を公表し、絶大な運動支援を頂いております。
ご承知の通り、提訴以来朝日新聞を皮切りに、業界紙は勿論のこと、週刊誌、日刊紙、テレビ、ラジオと、マスメディアも盛んに取り上げて頂いております。

一昨年10月の、九州、長崎県技の会員の熱い息吹に続いて、東北、宮城県技、福島県技と、全国14県技が、会を挙げて運動に賛同表明をしていただき活動して頂いております。
他の都道府県技は、組織としては残念ながら、結局は日技と同じ「静観」ということです。
私たちの運動に「賛成、反対」はあくまでも個人のお考えがありますから強制はできませんが、まず、今、何を論点に訴訟などをしているのかという事ぐらいは、会員に、あるいは全技工士に、そして自らも、「知る、知らせる義務」があるのではないでしょうか。
歯科技工士で組織する「公益法人」とは、社会一般の利益、公共の利益を優先するということでは、その「必要性」の責任を、社会的に課されていると思います。
ある意味、現状では公益法人としての組織の義務違反(不作為)が問われかねません。
なぜならば、最終判決はどうなるかは分かりませんが、法の下で、自らの業、身分、に関わる法律が侵され、図らずも個人的な訴訟とはなっておりますが、そのことが国民の口腔衛生確保に関わる重大な法律問題であるという事実です。
まさに「公益の問題」を疎かにしているということは、歯科技工士としての名誉、誇り、生甲斐、やりがい、希望等、胸いっぱい抱きつつ健気に業をなしている、一人の歯科技工士としての存在意義を否定することになりませんか。
それでは公益法人としての業界組織の意味は何なのでしょうか。
因みに私は、昭和47年からの「日技会員」です。
 
この度、控訴審第二回公判では、概略報告の通り口頭弁論は書面での応酬でしたが、昨年12月17日第一回控訴審の控訴理由書提出に対する、被告国側の反論がありましたが、それに対して原告側からの準備書面(1)として、今回提出しました。
国側は、すでに前回で十分議論を尽くしているという態度で、半分捨て鉢の言動が浮き彫りにされておりましたが、裁判長から「原告さんがこのように言っているので反論してください」と促される場面もありました。
それで、次回までに反論文書を上げるということになったのです。
証人尋問は、今回提出の私と、成田先生の陳述書で法廷維持できるということで却下されたのであります。
原告側は、実態に即した判断をということが根本にありますので、「保団連」の全国実態調査の結果を反映させたいことを申し上げ、了承されました。
 今回の準備書面は、「憲法論」を重視した内容になっております。
今までも、基本的な25条の重要性、14条「法の下の平等」の大切さは随所に訴えて参りましたが、国はもう凝り固まった歯科技工士像から抜け出ていないため、この憲法論議で基本的審議を深めようとするものです。
まず、法成立以前よりそれ以降も、歯科技工士は、法的にも実生活においても、差別的扱いを受けてきたことは自明の事実であります。このため、あらゆる政策、制度において、常に冷や水を飲まされて参りました。
これは、相手方のみを攻めるわけには行かない、国に関することでも、官民双方の問題解決に向けての認識不足、努力不足が拭い去ることはできません。
これらの問題が「差別、格差」として単直に言及することができない問題もあります。
しかし、今回の公判を機に、憲法論議で間口を拡げ、最高裁に行くための布石を打つことも大切かと考えております。それだけ、大切な問題であることを実感しております。
資料を添付しますので、ご覧になっていただきたいと思います。

1、閉廷後の報告会では、法廷外活動の充実発展を期して、国会議員対策と消費者センター(団体)に猛烈アタックすること。
2、街宣活動等で支援金カンパ・支援者名簿署名集め、できるだけ一枚でも多く収集。
3、支援者名簿は次回公判までまとめる。現在13,544筆。
4、各所にアピールのための資料をまとめる。

次回、第三回公判は4月15日(水)午後1時30分 東京高等裁判所817号法廷で行なわれます。
 見ず知らずの方からの1000円も、支援者名簿の一筆も、本当にありがたいことで、頭が下がります。本来であれば、拝眉の上直接お礼を申し上げるところですが、ぜひ関係された皆様方より心からの御礼を申し上げてください。本当にありがとうございます。
今後も、可能な限りご支援、ご協力の程をお願い申し上げます。

                            以上

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控訴審陳述書

陳述書

1 私の経歴について
  1951年に東京で生まれ,1979年北海道大学歯学部を卒業後,北海道勤医協歯科,札幌歯科センター副院長,もみじ台歯科所長を経て,1984年から青森県弘前市にて成田歯科クリニックを開業しています。
  現在,青森県保険医協会理事,同協会歯科部長,全国保険医団体連合会(保団連)理事(政策部・組織部・海外技工問題担当理事),青森県保険医協同組合副会長を務めています。

2 海外技工問題に取り組むようになった理由
私が海外技工問題に取り組むようになった第1の理由は,国民の生命と健康の安全確保の観点から,海外技工問題の解決が緊急に求められていると痛感したからです。
中国での餃子問題などで食の安全が社会問題となりましたが、それに対して,生活協同組合(生協)など組織的な対応の遅れも露呈しました。ここでの教訓は、国民の健康の安全の問題は待ってはくれないということです。海外技工問題はなし崩し的に拡大しており、国民の安全のためには少しの躊躇も許されない段階に来ていると思われます。このような事態に至っている原因は、国や厚生労働省の無責任な姿勢や言動にあります。それが全ての面に露呈しており,これらにメスを入れない限り日本の医療はよくなりません。そのことは,健康施設ペアーレ問題、指導監査問題、医療の抑制策等々への問題への対応を通じて痛感してきていることです。海外技工問題は厚生労働省の反国民的といってもよいほどの無責任さが全て凝集した問題であるといえます。
第2の理由は,歯科技工という問題がいつも歯科医療の陰に隠れてしまい,歯科医師と歯科技工士の利害の対立図だけが表に出てしまうことを憂慮していることです。海外技工問題の解決のためには,歯科医師と歯科技工士が協力して取り組まなければ解決できません。私は,海外技工問題に対する取り組みを通して,歯科医師と歯科技工士が歯科医療の真のパートナーとしての協力共同の関係が築き上げることができるようになれば考えております。

3 全国保険医団体連合会等の緊急調査の経緯と結果
海外技工物のなし崩し的な拡大は、国民の生命と健康の安全を今後長期にわたって脅かす問題であり、同時に危機的な国内歯科技工体制を決定的に破壊することになり、歯科医療チームを形成することすら難しくする事態を生み出しているとの懸念が強くなってきました。
それに対処するためには,まず海外歯科技工の実情を正しく把握することが急務と考え、私たちは実態調査を厚生労働省に要請しました。しかし,厚生労働省はその緊急性や重要性を理解しておらず,実態調査は遅々として進んでいません。
そこで、私たち自身が実態を把握しようと考え,まず青森県保険医協会で歯科医師向けの緊急調査を行い,続いて全国保険医団体連合会(保団連)で調査を実施しました。
この調査により,@海外技工物が平成17年以降急速に広がっていること,Aほとんどの歯科医師が海外技工物の実態や厚生労働省の平成17年通達を知らないでいること,B海外での制作国・技工所(ラボ)名・制作者資格・施設基準・材料・指示書等の情報はほとんど開示されておらず、安全性の保証を担保するものは何もないこと,C多くの歯科医師が安全性の危惧を強く感じていること,D同じく多くの歯科医師が歯科技工士をパートナーとして考え、技工体制の崩壊を憂慮していること,E厚生労働省の無責任な対応や歯科技工士法や薬事法に対するダブルスタンダードな対応への批判があり、早急に国の責任で実効ある対策をとることを求めていること,F院内技工を行っている歯科医療機関は2割を切り、歯科医療費の切り下げによる歯科医療体制の崩壊がかなり進行しており、ここに海外技工が広がりやすい客観的条件が存在することなどが明らかになりました。

4 平成17通達の問題点と本質
厚生労働省の平成17年通達は,「海外技工物は業者・歯科医師の自主規制で対応が可能」であるとの根拠を与え,海外技工物の宣伝や技工委託を急増させた一つの大きな原因となりました。
それとともに,平成17年通達には,内容的に下記の問題があります。
第1に,平成17年通達は,歯科技工士法との関連に一切触れていないということです。
第2に,平成17年通達が歯科技工士法との関連に一切触れていないが故に,これまでの国内技工に課してきた政策との整合性が全くないということです。国内においては,資格要件・施設基準・指示書(設計・作成方法)・材質等について詳細な定めがおかれていますが,平成17年通達はこれとの整合性について何も触れていません。また,歯科医師と技工制作者との関係に関連して,海外技工物から生じた問題に対する責任の所在等も曖昧なままです。
第3に,使用材料の安全性の問題です。平成17年通達は,使用材料について患者に十分な情報提供を行うよう書かれています。しかし,まず材料の表示に関しては,海外の材料規格の情報もないため,個々の医療機関が患者に対して情報提供を行うことは実質上不可能です。さらに,そもそも材料の表示を求めることは無意味であるともいえます。なぜなら,たとえ表示したとしても,その安全性を保障するものはなにもないからです。そもそも材料の表示に関しては,日本の工業規格や医薬品規格などを準用して国でチェックを行うのは可能であると思われます。しかし,国や厚生労働省は何も行っていません。次に材料の検証についてですが,海外技工物の材質検査を個々の医療機関が行うことは不可能です。私たちは,北大歯学部理工学科の協力を得て材料の分析調査を行いましたが,同学科での分析法によれば、政府の既存の施設や機材や人材で,海外技工物を十分チェックできることが判明しています。したがって,工業試験所など政府機関で材質検査を行うことは可能でしょうが,それについても国は何も行っていません。
第4に,患者への情報説明と同意の問題です。保団連は昨年9月に実態調査を行っておりますが,現在,第2弾として,患者をも対象とした緊急調査を実施しています。その調査によると,海外技工の実態は患者・国民にほとんど知らされていないという問題が明らかになってきています。平成17年通達でいう「十分な情報を患者に説明し」なければならないというのであれば,「海外技工物は無資格者が作製し、材料の規制もチェックもない」という情報が真っ先に患者国民に知らされねばならないと思います。また,現在進めている第2弾の調査によれば,無資格者が作成し,材料のチェック規制がない等の海外技工の実態を知るならば、ほとんどの患者さんは説明を受けても同意しないと回答しています。そして,それらのことは,本来,国がきちんと情報提供すべきです。しかし,実態として国はそれらの情報提供をしていません。
第5に,責任の所在の問題です。国や厚生労働省は自らの行政責任を巧妙に回避しながら、歯科医師の自主性を尊重するようなオブラートを包み、自らの責任を歯科医師にすり替えています。更に業者(製作者・流通業者・仲介業者)の責任、歯科医師と業者と患者の契約上の責任などは全く不問であり、破折や不適合、更に金属アレルギーや有害物質による健康障害などが生じた場合の責任の所在は全く不明です。国民安全センターにはすでに海外技工物の修理の費用の問題や,品質上の問題などの苦情が寄せられていると言われており,この点でも国の緊急の対応が求められていると思われます。
以上述べたとおり,この通達は,これまで歯科技工の安全性と品質を守るために,歯科医師法や歯科技工士法など関連の法や通達など,歴史的な経過と実績のある歯科医療・歯科技工の仕組みを,何の根拠もなく乱暴に否定するものとなっています。また同時に,安全性や品質性の保持のためには非常に不十分であり,かつ,徹底する姿勢もみられません。

4 歯科技工海外委託問題を巡って
国や厚生労働省は,低医療費政策を強引に進めてきた結果,歯科医院や歯科技工所の経済的な困難さは極限にきており、さらに一方的に歯科技工士にしわ寄せが押しつけられる場合が多い状況にあります。
歯科技工士が厳しい環境におかれている中で,技工士の離職や技工士学校の閉校など,技工士のなり手さえもいいない危機的状況になっています。これらのことをもって,海外技工委託の必要性を説き、技工助手制度など国家資格の切り下げを正当化する動きも見られますが,それは本末転倒も甚だしいといえます。
海外技工問題は,介護要員の他国からの安上がりな導入や看護師の国家資格のレベルを下げる動きなどと同様の問題であり,たまたま出てきた問題ではないと思われます。
高齢化社会を迎え,高齢者の口腔の健康が全体の生活レベル・健康レベルの改善に不可欠であるという認識と,あらゆる面で安全性と品質の保持が重要との認識が国民の中で高まってきています。
今後歯科技工物が膨大な高齢者の口腔に安全・安心に供されるという役割があるとともに,在宅や入院患者のベッドサイドでの歯科医師と技工士の連携や,非常に高度な口腔機能の回復の課題,人工臓器の科学的分析など新たな役割が歯科医療と歯科技工に求められており,そこには膨大な仕事の分野と医療連携の新たな姿があります。このどれをとっても安上がりに,安全・安心の保障もない海外技工物で事足りるはずがないのは明白です。
この海外技工問題は,これまでの陰に隠れていた歯科医療問題,とりわけ歯科技工の役割に深く関わる問題であり,来るべき高齢化社会の歯科医療・歯科技工のあり方とその具体的な手立てを考えるうえで解決すべき重要な課題であると考えられます。
裁判所において,海外技工の実態,平成17年通達の歯科医療の現場での実態,歯科技工士の実態に向き合ったうえで,公正な判断を下して頂くことを強く望んでいます。

 2009年2月16日

               青森県弘前市八幡町2丁目5番5号
                 歯科医師 成 田 博 之

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2009年02月20日

控訴審陳述書

         
            平成21年2月18日
     陳述書
                
東京都世田谷区砧3丁目18番2号   
             
                原告 歯科技工士 脇 本 征 男


1 経歴について

(1) 私は,昭和33年春,中学卒業と同時に,世界遺産白神山地の麓,青森県の西海岸から単身上京し,都内中央区の歯科医師,医学博士石田正次先生の経営する歯科医院の書生として住み込み,夜は定時制高校へ通うという生活を送ることになりました。
終戦と同時に復員した父は村役場に就職し,続けて妹や弟が4人も誕生し,いかに一人向学心に燃えているとはいえ,田舎ではどうすることもできないとの家庭の事情と相まって,口減らしを自覚し,高校進学はあきらめ,勉強はのぞむだけ叶えてくださる方だとの学校の薦めもあり,布団袋と柳こおりひとつで,夜行列車に揺られて憧れの上京となった訳です。
毎朝6時には起床し,先生家族が階下に寝ているので,静かに自分の寝室としてあてがわれていた畳部屋の待合室から,診療室,技工室,患者用の階段,玄関の内外,トイレと掃除を済ませ,続いてユニット(診察台)2台の清掃(特にうがいする箇所)をしながら,診療器具の煮沸消毒や患者の診察用エプロンのチェックと取替え。冬は待合室は丸火鉢に木炭を使用。診療室はガスストーブ。夏は,両方とも扇風機を使用しておりました。それらの整理整頓し,準備を済ませてから,8時頃朝食を採るのが一日の始まりでした。スタッフは,先生と私だけです。診療時間は9時から6時までで,木曜日は午後休診。日曜・祝祭日も午前中は診療をしており,一日の患者数は60〜80人と息つく暇がないくらいでした。
私は,学校がありましたので,診療中でも5時には学校へ向かいます。「お先に失礼いたします。学校へ行かせていただきます」ということも,教えられた言葉ではあります。私が退室したあとは,奥様が閉院まで助手としてお手伝いをしておりました。学校へ通える幸せに,自分の時間として充実感をじっくりと味わえる毎日に満足しておりました。
学校が終わり,帰宅する時間は9時半から10時。クラブ活動をしたりすると11時を過ぎることも週に2度はありました。帰宅してから奥様が作ってくださった晩御飯です。一息ついて,待合室を掃除して布団を敷き,寝る前に予習復習のために教科書を開くのは先生の診療机で,2時間くらいは頑張ったものでした。寝るのはいつも1時から3時になりましたが,やり抜いておりました。電気の使い方にはうるさいくらい注意を受け,節電に心掛けながらの毎日でした。15歳,食べ盛りのためか,奥様に,ご飯だけは遠慮するなと言われていましたが,いつもお腹をすかしていた記憶だけは,今でも辛かったことを思い出します。

(2) 仕事は,技工室で先生の横に座らされ,技工は「目で見て盗むこと」と教えられました。
診療室では,初診,再診の受付からカルテの整理。和34年には一部の保険制度が始まり,昭和36年からは「国民皆保険制度」に移行したため,「保険証」一枚でどなたでも診療できるシステムになり,ますます忙しくなったのです。
患者さんのエプロンを掛けてあげ,コップを取り替えて手動でうがい水を入れてやり,先生がカルテを確認し患者さんの横に立って診療が始まると,技工室での仕事がない時はいつも先生のすぐ後ろ横に立って診療助手をやらされていました。暇を見つけては,本棚の医学書や専門書をあさっては,私なりに,診療のノウハウを勉強していたものでした。毎月の保険の請求事務も手取り足取り教えられ,カルテの原簿を写すことと計算だけだったので,大した難しいと思った記憶はありませんでした。しかし,一度覚えた所作,要領は恐ろしいもので,幸い一度も事故もなく,退職するまで続けておりました。まさに,徒弟制度を地でいっていた生活です。
そして,月のお給金は2,000円,高校を卒業する時が4,000円でした。学校へ行っているときだけが自分の時間といった感じでした。

(3) いよいよ高校卒業の年になり,進路選択の時期となりました。
あくまでも,当時の仕事はアルバイトと思っていましたし,「将来は弁護士に」これが,私の夢でしたので,先生に相談もせず,ある大学の法学部に受験準備を進め,幸いにも合格してしまったのです。それとは別に,進められるままに先生の出身校に推薦され,歯学部付属の技工士養成所にも受験手続を進めていたのですが,そちらも合格したのです。
現実的に学業生活の成立可否が大問題となり,結局は先生と親の相談の結果,今まで通りの夜学生活を選ばなければならないことになったのです。今思うと自立心全くゼロでした。「生活が先だ」まだ若いんだから「法学を学ぶのはそれからでも良い」。これが突きつけられた結論でした。御託を並べ立てているより,手っ取り早く技術のある職業で免許を取って生活できることが優先だというわけです。「歯科技工士は医療技術者だぞ」これが,先生の推奨の弁でした。

(4) 歯科技工士養成所での夜学生活4年間では,自らの世界の狭さを痛感し,多くの優秀な教師,学友と触れることにより,仕事の質,便利な器具,機械,材料,仕事環境等,授業以上に目に触れることすべてによって,資格の大切さが自らに芽生え,歯科技工士としての充実人生に,将来の夢をはせることに十分すぎるものでありました。
特筆すべきは,3・4年生の二年間,後輩二人も育ってきたからということで,先生の友人で規模の大きな歯科医院で,学校の夏休み,冬休み2ヶ月ずつ,修行することになったのです。そこには,私の一級下の学生と,他に先輩の技工士が三名おられ,その方々は同じ年頃なのですが,一人は無資格者だということでした。不思議なことに,その方が他の技工士が驚くような素晴らしい補綴物を製作するのでした。
そこでは,歯科技工の最先端技術を駆使しており,診療も,技工も,私の勤めている医院とは月とスッポンくらいの差を感じたものでした。同時に,歯科医師だけでは歯科医療は成り立たないことも教わりました。そこで,歯科衛生士という職業のあることを,初めて知ったのです。歯科医療は,患者さんの口の健康と安心・安全を確保するために,歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士の綿密な連携がなければ成立しないのだということを,身をもって経験させていただきました。
そして,患者さんの良質な歯科医療を担保するために,国はそれぞれのパーツに資格制度をしき,独立した免許者が連携してひとつの仕事を完成させているのだ,ということもわかりました。そこで,いかに自分が中途半端な生き方だったかを猛省させられました。
無資格だった方もその後学校へ通い,国家資格を得て,正式な歯科技工士として一代を成し遂げ,今は朗々の年金暮らしをしながら,元気で後輩育成にあたっておられます。当時,氏の製作したすばらしい精密な補綴物に強烈な刺激を受け,絶対に負けないような歯科技工士になってやる,との一念で卒業,国家試験合格と突き進むことができました。めでたく8年間の夜学生活にピリオドを打ち,ちなみにその時の給金が7,000円でした。

(5) 昭和41年当時,国家試験の暫定時限措置といわれながら,「東京都知事の行う国家試験」に合格し,国家資格者としての「歯科技工士免許証」を授受し,爾来「歯科技工士」として業をなし,43年間,遵法精神を尊び,真摯に職業意識に燃え,自信と誇りを持って本分を忘れることなく,先行性を常に怠りなく励んできたつもりです。
在学中,「関係法規」授業の講師は,晩年奥羽大学学長を勉められ,亡くなられた,当時,厚生省技官であられた能美光房先生でした。国の官僚が教壇に立ち,学生に全幅の信頼を得ながら,常に,歯科技工士は「医療職」だ,「業務独占」の自覚を持って勉強しろ,と教えられました。しかしながら,この度の国の主張は,わが国の歯科技工士の存在意義そのものと,歯科医療の現実を無視した,あまりにも軽視し過ぎていること甚だしく,到底納得いくものではありません。まさに行政の舞文弄法といっても過言ではありません。 

2 歯科技工海外委託問題についての厚生労働省との交渉

(1) 平成15年6月12日(木)午後3時頃,私と原告の一人である大塚光男の二人で,ある海外委託仲介業者が「厚生労働省で海外委託の容認を得た」と書いている文書を携えて,厚生労働省の歯科保健課を訪問しました。
たまたま在室中でした瀧口徹課長,田口円祐課長補佐,平田創一郎技官の3名に,歯科技工の海外委託は歯科技工士法違反ではないかと申しあげ,持参の文書を提示しました。そうしたところ,滝口氏らは,「単なる風評ではないのか。そんなことは知らない。」「歯科技工(士)法制定時,想定外だった。」「歯科技工士法はあくまでも国内法である。」「歯科医師の裁量で可能である。」「歯科技工指示書に『海外に出してくれ』と明記されれば可能である。」「保険診療はだめだが,自由診療は可能である。」「無認可の材料を仕入れ,歯科医師の直接指示で,院内技工室での作成は可能であるが,外注は不可である。」「細々やってる技工所くんだりが,なんで海外委託なんぞに目くじら立てるのか。」などと言われ,そのうち,「この問題は刑法が絡んでくる話だ。刑法だ!刑法だ!我々は警察ではない。違法性があるなら警察へ行ってくれ」などと周りの人がびっくりするくらいの大声で叫びだす始末で,面談が適ったお礼を申し上げそそくさと退散したのでした。

(2) その後,東京弁護士会を訪問し弁護士に相談したり,私の主催する「『隗』(カイ)国民と歯科技工士を守る会」での勉強会を続けるとともに,世田谷警察署にも伺いました。そこでは,係官が「歯科技工の海外委託は,限りなく違法行為である」と述べていました。
「『隗』国民と歯科技工士を守る会」では,(社)東京都歯科技工士会(通称=都技)の4支部が集まった西部ブロックが中心となり,弁護士2名と契約し,専門的に訴訟のための具体策を練りました。その取り組みが都技に波及し,平成16年7月,都技内に「遵法・歯科技工の海外委託問題対策本部」が設立されました。私たちもその一員となり,弁護士らと活動を始めました。
対策本部の基本方針は「歯科技工行為の海外委託の是正」を掲げました。また基本理念として,「歯科技工士法の遵守」,「歯科技工士法を犯す行為を早急に是正」,「医療従事者としての職業倫理の構築」を掲げ,実践行動として,「厚生労働省の正式見解の確認」,「歯科技工行為の海外委託の合非と,未承認材料使用の可否の確認」を掲げました。そして,以上の活動の結果を受けて,法的手段で対応すると共に,医道審議会にも申し入れを行うことなどを都技の代議員会で決議しました。
上部団体(社団法人日本歯科技工士会=通称日技)とも何度となく会合を持ち,相談しながら,示唆されるままに,都庁衛生局,保健所等にも数回弁護士と一緒に交渉に伺いました。
その結果,平成17年3月11日,対策本部と弁護士合わせて7名で,「申し入れ書」を携えて,日技の常務理事の仲介で厚生労働省歯科保健課に面談いたしました。「申し入れ書」では,@歯科技工士法26条の広告違反の件,A薬事法68条未(無)承認材料の広告違反の件,B歯科技工士法17条および18条無資格者に歯科技工行為委託違反の件の3件の事案について,法的根拠を示しその違法性を申し入れしました。
当日即答は得られず,「後日日技を通して回答する。」との約束を取り付け,「回答」を待つことになりました。その間も厚生労働省からの「回答」を待ちながら,他方で,対策本部に経過報告をし,弁護士による説明会を開催するなどの取り組みの中で,6月の都技代議員会で「仲介業者を告発すべし」の決議が採択されました。その仔細を日技担当常務伝えたところ,「やったほうが良いよ。」との返事でした。
7月の中旬,警視庁に対し仲介業者を「刑事告発」しました。しかし,残念ながら,「厚生労働省の正式見解がなければ正式受理できない」と言われ一時預かりとなりました。そのことを日技に報告するとともに,厚生労働省からの回答はまだか確認したところ,厚生労働省が文書を出すということで今やり取りしているとのことでした。
そこで,私たちはその文書を見せて欲しいと頼みましたが,拒否されました。
その後,2週間ほど後の平成17年9月8日,いわゆる「17年通達」が出されました。その内容は,残念ながら歯科技工士法17条が骨抜きにされ,業者にはお墨付きを与えてしまうものでした。

 (3) その後私たち対策本部のメンバーは,海外委託の大手仲介業者が在る地域の都内歯科医師会2ヶ所に面会を求めました。歯科医師会の先生は,平成17年通達に関して,「日歯,日技はどんな考えでいようとも,現場の歯科医師会としては納得が行かない。東京都歯科医師会にも挙げて反対運動に協力したい。この通達は,我々歯科医師に責任転嫁したもので,行政は自らの責任を回避したものだ」と大変力強い言葉を述べられました。
そこで,私たちは,これから本格的に海外委託問題に取り組もうと考えていたところ,都技は理事会決定により10月30日をもって対策本部を解散することになりました。その理由は,日技がこの問題に取り組むと述べているので今後は都技執行部で対応するというものでした。全くのところ,何を考えているのかあきれるばかりでした。会員には大きな負担をかけた上に,中途で目標をあきらめるなど,許しがたい対応でした。これまでの歯科技工士会は,常に歯科医師会や国にも甘く見られ,いつも足元をすくわれる事態に陥り,苦しい思いを強いられているのは末端の歯科技工士なのです。断腸の思いでした。

3 歯科技工の海外委託に関する私の体験

  私は,平成14年には,お得意先が5軒ほどあり,月平均60万円ほどの収入がありました。家賃,材料,諸経費を差し引くと,妻の先住者給与を充てないと生活できない状況でした。
  そんなおり,あるお得意先のところで,総義歯上下を咬合器に付着して試適するため持って行かせたのか,何日も経っても戻ってきませんでした。そこで,先生(歯科医師)に尋ねたところ「患者が入院した」というのです。どんな病気かわかりませんが,それであれば退院してからやり直しましょうと申しあげました。ところが,先生からは,「(咬合器を)こちらに置くから」と言われました。その先生とは20年も長い間のお得意先なので,信用していました。ところが,そのようなことが2度や3度と続くのです。そこで,それとなく妻に探ってもらったところ,咬合器だけはありますが,模型はないというのです。そこで,私は,先生から咬合器だけは返してもらいましたが,どうもどこかへ作製に依頼した様子でした。そこで,先生にわからないように,歯科衛生士の方に尋ねたところ,大阪の方の海外委託をやっている営業所へ発注していることが判明しました。私は,裏切られた思いがしました。長年の信用もあったものではありません。一言も断ることなく,保険外の高価な材料を請求しても支払ってもらえず,泣き寝入りをせざるをえませんでした。

  その後,その先生からは,保険の仕事でその年の暮れに同じことがありましたので,はっきりと私の方からお断りをし,おつきあいを辞めさせてもらいました。おかげで,その先生の関係で月7万円から8万円ほどあった売上が無くなりました。
  実は,このような話は私の周りからもよく聞きます。私たちは,海外委託により実際に被害を被っているといえるのです。

4 歯科技工海外委託問題に対する私の思い

(1) 私は,歯科技工の海外委託問題は,国家免許取得者として断じて許せないとの信念を抱いています。
歯科技工の海外委託への対応は当該行政庁の「合理的な裁量」に委ねられると判示していますが,行政権といえども法律に従わなければならないことは当然です。歯科技工の海外委託に対する行政の対応は,業務独占のある歯科技工士の法的に守られるべき利益を侵害していることは否めない事実であり,さらには国民の安全・安心の歯科治療の実現との利益をも侵していると考えます。
そもそも,国は,国民の健康保持という趣旨・目的をもって,歯科技工士制度を設けて,歯科技工士としての免許を与えたわけです。その免許は法律に従って与えられている以上,単なる事実上のみならず「法律上の利益」が存することは明らかです。
私たちは,現場でそれだけ自信と誇りを持って業をなしています。私たち歯科技工士は単なる製作業ではないのです。歯科技工士の製作した補綴物は,特定人に対してだけのものであり,世界に二つとないばかりか,患者さんの口腔内で臓器ともなり得るし生体機能ともなる,超精密医療機器として評価されているのです。
歯科技工士は,衛生行政のなかで歯科医療従事者として位置づけられています。歯科技工士になるには,歯科医学,補綴学,充填学,矯正学,理工学等の理論に基づいた科学技術を習得しなければなりません。現在では歯科医師でもできない技術を備え,充分に業として需要に応えています。現場では,健全な歯科医師ほどその事実を認め,国の対応に抗議しているのが現状です。
歯科技工士制度については,徒弟制度という国の偏見を改めなければ,歯科技工士に対する差別,格差の状態はなくなりません。その点で特筆すべきは,昭和56年より歯科医師国家試験補綴部門の実技試験が廃止されたことです。ますます補綴は歯科技工士に委ねざるを得なくなっているといえます。この専門職である歯科技工士制度を維持発展させてこそ,国民が安心して歯科治療を受けることができると私は信じています。歯科技工の海外委託は,まさにこの歯科技工制度そのものを根本から崩壊させようとする問題であるがゆえに,私たちにとって死活問題であり,かつ,国民の安全な歯科治療の実現にとっても死活問題なのです。

 (2) 昭和36年よりわが国は世界でも画たる「国民皆保険制度」を施いております。健康保険制度は,国民が支えている国民のための社会保障制度の一つで,国民が充分な医療を受けられるように2年毎に改正を行っています。昭和63年改定の際,高度な国民歯科医療を確保するために,大臣告示として,点数表の通則にいわゆる「7:3」の割合が加えられました。これはすなわち,点数表の歯冠修復及び欠損補綴料を「製作技工に要する費用」と「製作管理に要する費用」に7:3の割合で配分するというものです。このうち,歯科技工士は前者の7割,歯科医師は後者の3割とするとしたものです。これにより,ややもすると価格競争による弊害が生じることを避け,技術を競い合うことにより,質の向上を図り,少しでもより良質な技工物が国民(患者さん)に提供されることを目的としたものです。
このいわゆる「7:3」を点数表の「通則」に規定したのは,中央社会保険医療協議会(中医協)の強い要望もあり,確実に履行されるように法的拘束性を持たせるためでした。ところがなぜかいわゆる「7:3」の趣旨と拘束性が明白であるにも拘わらず,現在実効性のないものになっているのです。歯科技工士の場合,この「大臣告示」が出され,長年待ちのぞんだ経済基盤の構築もでき,少しは適正な料金形態を受け,将来の業界の光明が見え始めたと思ったのであります。
しかし,国は「大臣告示」(S,63,5,30)を出したまでは良かったのですが,その後は,兵庫県と福岡県からの「通則」に対する照会に対しての厚生労働省からの回答(S,63,6,14)と,その年の10月20日に保険局長の業界を代表する両会会長あての指導「通知」を出しただけです。内容は,「大臣告示(通則)の趣旨・目的を尊重し,守り,国民の良質の歯科医療に資するために,それぞれ両会の会員を指導して頂きたい。」ということでした。そして実際にはそれが守られていない現実があり,その中で歯科技工士の生活が脅かされている現実があります。
その根底には,歯科技工(士)法制定以来,依然と「徒弟制度の技工士」の残像から払拭できていないことがあると思います。そしてそのことは,歯科技工海外委託問題にも通底しています。
前にのべたとおり,今や「徒弟制度の技工士」像を維持したままでは健全な歯科治療が実現できません。歯科技工士は,歯科技工に関しては歯科医師にも勝るほどの専門的な知識と技量を有する専門職として,歯科治療にとって必要不可欠な存在であるし,そのような存在としての地位がきちんと確保されなければなりません。
私は,これまで何度も行政当局と交渉をしてきましたし,行政当局にだまされてもきました。しかし,今回こそは,行政にだまされたくない。二度と悔し涙は流したくない。泣き寝入りはもういやだ。裁判所はきっと弱い者を助けてくれるに違いない。それを頼りに「海外委託問題」解決のために,立ち上がったのです。
私は,徒弟見習から正規の教育機関を卒業し,歯科技工士の免許資格を得て43年間,所期の目的達成を貫き通して生きてきました。この67歳の老爺の最後のご奉公とご賢察の上,お聞き届け賜れば幸甚です。

5 歯科技工海外委託問題訴訟に対する反響

 (1) 歯科技工海外委託問題訴訟は,多くの国会議員の先生らも注目しています。
たとえば,衆議院議員金田誠一先生は,『隗』設立以来,私たちの最高の理解者であり,私利私欲を越えてご支援いただいてまいりました。私たちは,先の「大臣告示」の件で金田先生にご相談に上がり,国会で二度に亘る議論をしていただきました。またそれ以外でも,数度にわたって行政の担当官を議員会館の自室に呼びレクチャーされるなど,身に余るご活躍を賜りました。
今回の「歯科技工の海外委託問題」では,「17年通達」が出される前から,都技における対策本部の活動について,いわば私たちの顧問格としてご相談賜ってまいりました。残念ながら,「17年通達」が発出された直後に脳梗塞で倒れられました。官僚を呼んでレクチャーした後,行政側の「ただ今調査中」を信じて回答を待っていた平成17年の年末のことでした。金田先生の強靭なる生命力と,誠実一路の政治に賭けられる精神力により,最初のころは車椅子でしたが,現在は杖を頼りに歩けるまでに快復され,日々リハビリに励んでおられます。そして,平成20年8月3日は,裁判の報告会を兼ねたシンポジゥムにはお元気に参加され,ご激励を賜りました。さらに,一審判決の出される前の昨年9月22日には,厚生労働大臣に対して,「意見書」を提出頂いております。
また他にも,参議院議員大久保勉先生の二度にわたる質問主意書提出,衆議院議員仙谷由人先生の質問主意書提出などがあり,また参議院議員桜井充先生の国会質問は大きくマスメディアに反響し,社会的に注目されることになりました。

(2) また,地方からも歯科技工の海外委託問題についての政府の対応を求める声が上がっており,現在6つの地方議会が国に対して歯科技工海外委託問題の解決を求める「意見書」を採択し,それぞれ提出されております。

(3) また,全国3万8千名の医師・歯科医師等で構成される「全国保険医団体連合会」も歯科技工の海外委託問題に積極的に関わっており,歯科医師の立場から調査活動等を積極的に行っております。さらに,歯科技工士の養成学校の組織である「全国歯科技工士教育協議会」は,本件訴訟提起時に連動して,厚生労働大臣宛に歯科技工海外委託問題の解決を求める嘆願書の提出をしています。さらに歯科技工所規模15名以上の方々の歯科技工所から構成されている「日本歯科技工所協会」は,平成20年12月18日,「海外技工物の流入を絶対阻止」とする基本姿勢を確認するとともに,解決のための3項目を発表し,現在も活発に活動を継続しています。

(4) また,訴訟支援については,現在「支援者名簿」への署名活動を行っていますが,平成21年2月16日現在で13,425名の方々支援者として署名して頂いております。
  このように,本件訴訟は,全国各地から注目を受けております。訴訟支援をして頂いている方々は,国民の安全な歯科治療にとって何の保障もない歯科技工の海外委託は歯科技工士法の趣旨に反する違法なものであるということ,また,従来から安全・安心な歯科治療の実現に大きな役割を果たしてきた歯科技工士の地位が歯科技工の海外委託で脅かされているということを裁判所においてきちんと確認をしてもらうことを強く期待しているのです。

6 まとめ
今まで,この歯科業界に関係する官民双方が幾度となく基本的問題を蔑ろにしてきた経緯があります。歯科医療業界が業界全体で基本に返るべきであり,猛省が望まれます。
私たちの業界では,「法に穴がある」「法に不備がある」といいつつ,法を直すこともせず,法の上で闘うこともせず,その不条理を解決するために立ち上がりもしませんでした。これでは,国民のために業をなしている者として社会責任を果たしているとは思えません。
今回,この老爺67歳ではありますが,思い切って,業界の不遜な状態に一矢を報い,明日の希望の持てる世界一誇れる歯科技工業界と,ゆるぎない国民のための真の歯科医療業界構築にいささかの役に立ちたいと思い本件訴訟を提起しました。
裁判所におかれましては,海外歯科技工の実態,歯科技工士に置かれている実態を十分に見据えて,公正,寛大なるご判断を賜りたく,お願いを申し上げます。

以上

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控訴人準備書面

平成20年(行コ)第347号 損害賠償等請求事件
 控訴人   脇本 征男 外
 被控訴人   国


控訴人準備書面(1)

                     平成21年2月18日

東京高等裁判所第20民事部  御 中

           控訴訴訟代理人弁護士  工 藤  勇 治
              
           同           川 上  詩 朗

           同           岩 ア  泰 一



第1 「歯科技工士の法的地位」に対する憲法的構成
1 はじめに
 (1) 本件では,控訴人らに行政事件訴訟法上「法律上の争訟」「確認の利益」が,また,国会賠償法の「違法性」が認められるのかが争点となっている。それに関して,原判決は,歯科技工士の法的地位については,「事実上の利益」にとどまり,歯科技工士法において「歯科技工士の個別的利益」として「法律上の利益」にあたるものではないと判示する。また,被控訴人国も「法律上の利益」を保障したものではないと主張する(答弁書5頁)。それを前提に,「法律上の争訟」「確認の利益」「違法性」を否定する。
 (2) これに対する基本的な批判は控訴理由書で述べているが,本書面では特に「法律上の利益」に関して,歯科技工士法,歯科医師法等の歯科医療に関連する法規に加えて,日本国憲法14条1項(平等原則あるいは平等権)の規範も踏まえて再構成することにより,控訴人らにおいて保全されるべき「歯科技工士の法的地位」が「法律上の利益」といえることを論じる。
なお,近時,行政事件訴訟法上の「法律上の利益」や国家賠償法の「違法性」に関連して憲法上の基本的人権に即して再構成し,これにより「法律上の利益」や「違法性」を根拠付けようとする見解がみられる(これらの見解を紹介するものとして,磯部力・小早川光郎・芝池義一編「行政法の新構想V 行政救済法」2008年・有斐閣がある)。本書面の主張は,これらの見解を参考に論じるものである。

2 「歯科技工士の法的地位」の憲法的構成
 (1) 歯科技工士法及び歯科医師法
ア 「歯科技工士の法的地位」に関しては,すでに控訴理由書第4項2(控訴理由書15頁以下)で詳しく述べている。それを要約すると,歯科技工士法1条は,この法律は「歯科技工士の資格」を定めるとともに、「歯科技工の業務が適正に運用されるように規律」し、もつて「歯科医療の普及及び向上」に寄与することを目的とすると定めている。「歯科技工士の資格」としては「歯科技工士の免許」制度を設け(同法第2章),「歯科技工の業務が適正に運用される」ための規律として,無資格者による歯科技工の禁止(同法17条1項)等の規定を設けている。これにより,同法は,「歯科医療の普及及び向上」,すなわち,国民の健康権(日本国憲法25条1項)を保障しようとしたのである。また,歯科医師法1条は,歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによって、「公衆衛生の向上及び増進に寄与」し、もつて「国民の健康な生活」を確保するものとすると規定する。これもまた歯科技工士法1条と同様,究極的には「国民の健康な生活」(日本国憲法25条1項)の実現を目的とするものである。歯科医師及び歯科技工士は,ともに歯科医療従事者として,国民に対して安全・安心な歯科治療を実現することで,「国民の健康な生活」(日本国憲法25条1項)の実現を期待されているのである。
  イ このように,歯科技工士法は,歯科技工士免許制度を設けることにより,歯科技工士資格を有する者(資格者)と同資格を有しない者(無資格者)を区別し,かつ,無資格者による歯科技工を禁じることにより,資格者である歯科技工士が「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」を有することを認めている。
    この「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」について,原判決及び被控訴人国は,単なる「事実上の利益」であり「法律上の利益」ではないと述べる。これに対して,控訴人は,歯科技工の海外委託の実態等に照らすならば,歯科技工士法及び歯科医師法の上記目的を現実に実現するためには,単に制度として歯科技工士の業務独占を保護するだけではなく,個々の歯科技工士に対して「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」が保障することが不可欠であるとし,この利益は個々の歯科技工士に認められた具体的な「法律上の利益」であると反論する(控訴理由書第第4項2,16頁以下)。
    上記反論に加え,次に述べるとおり,控訴人ら「歯科技工士の法的地位」について歯科技工士法,歯科医師法だけではなく,日本国憲法14条1項の規範に拠り再構成することで,それが「法律上の利益」であることがより明瞭になる。
 (2) 日本国憲法14条1項
日本国憲法は,国家と国民の法律関係を直接規律する実定法であるから,本件における控訴人と被控訴人との法律関係も日本国憲法の規律に服する。
日本国憲法14条1項は,国家の国民に対する不合理な差別的取り扱いを禁止している。前記のとおり,控訴人ら歯科技工士には「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」が認められている。その性質について「事実上の利益」か「法律上の利益」かが争点となっているが,仮にその点は置くとしても,日本国憲法14条1項の規範に照らせば,「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」の取り扱いについて不合理な差別的取り扱いが法的に禁じられることになる。
すなわち,控訴人らには,「『歯科技工業務を独占的に行うことができる利益』について被控訴人国から不合理な差別的取り扱いをうけることがされない法的地位乃至権利」が認められるのであり,それが「歯科技工士の法的地位」の内実である。
(3) 「歯科技工士の法的地位」の内実
前記のとおり,「歯科技工業務を独占的に行うことができる利益」については,これまで「事実上の利益」か「法律上の利益」かが争点とされてきた。しかし,仮にそれ自体が「事実上の利益」であるとしても,「『歯科技工業務を独占的に行うことができる利益』について被控訴人国から不合理な差別的取り扱いをされない法的地位乃至権利」,すなわち「歯科技工士の法的地位」は日本国憲法14条1項から導き出されるのであり,かつ,日本国憲法14条1項は控訴人個人と被控訴人国との関係を直接規律する法規範であるから,「歯科技工士の法的地位」は控訴人ら個人に「法律上保護された利益」,すなわち「法律上の利益」といえるのである。 

3 「法律上の争訟」及び「確認の利益」について
 (1) 「歯科技工士の法的地位」について,前記憲法的構成を前提に「法律上の争訟」及び「確認の利益」について検討する。
  ア 「法律上の利益」
前記のとおり,控訴人らには歯科技工士法及び日本国憲法14条1項に拠り,「『歯科技工業務を独占的に行うことができる利益』について被控訴人国から不合理な差別的取り扱いをうけることがされない法的地位乃至権利」が認められる。それが「歯科技工士の法的地位」の内実である。そして,それについては「法律上の利益」といえる。
  イ 「法律上の争訟」
ところで,歯科技工の海外委託に関していえば,国は,日本国内における無資格者による歯科技工は禁止しているが,海外における無資格者による歯科技工については禁止していない。そのため,一方で歯科技工業務を独占的に行うことができる利益が保持され(無資格者による歯科技工業務が禁じられている),他方で同利益が保持されていない(無資格者による歯科技工業務が禁じられていない)という異なる取り扱いがされている。
    原判決及び被控訴人国は,この異なる取り扱いを合理化する根拠として,「当該行政庁の合理的裁量」を持ち出す(答弁書5頁)。しかし,行政庁の裁量が一般的には認められるとしても,無資格者による歯科技工を禁じた歯科技工士法17条1項の趣旨に照らせば,無資格者による歯科技工が行われている蓋然性が高い歯科技工の海外委託を禁止するのが道理である。このことは,控訴理由書第4項3(17頁以下)ですでに論じたとおりである。当該行政庁に「合理的裁量」権があるというだけでは,無資格者による歯科技工について,日本国内と海外とで異なる取り扱いをすることの合理的根拠にはなりえない。
    被控訴人国は,「当該行政庁の合理的裁量」論以外に,上記の異なる取り扱いを合理化する根拠をしめしていない。
    よって,国が平成17年通達で歯科技工の海外委託を許容すること(作為)や,違法な状態にあるのに調査や指導等も行わずに放置する(不作為)ことにより,控訴人らは不合理な差別的取り扱いを受けているのであり,前記「歯科技工士の法的地位」を侵害し乃至はそれを脅かすおそれがある。そして,被控訴人国の上記作為及び不作為がいずれも違法であり,かつ,控訴人らには歯科技工の海外委託を禁じられることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることが確認されるならば,現実的に控訴人らの「歯科技工士の法的地位」への脅威が解消され,同地位が保全されることになる。
したがって,本件は,「具体的な権利義務乃至法律関係の存否に関する紛争」であり,かつ,「法令の適用により終局的に解決することができるもの」といえるのであるから,「法律上の争訟」が認められる。
  ウ 「確認の利益」
    「法律上の争訟」でも述べたとおり,「歯科技工士の法的地位」の内実は,「『歯科技工業務を独占的に行うことができる利益』について被控訴人国から不合理な差別的取り扱いをうけることがされない法的地位乃至権利」であり,それは「法律上の利益」である。
    歯科技工の海外委託により,この「歯科技工士の法的地位」に対する侵害乃至はその脅威が生じているのであるから,本件は「判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合」に該当する。
    したがって,控訴人には確認の利益が認められる(控訴理由書第4項5,19頁以下)。

4 国家賠償法上の「違法性」について
 (1) 国家賠償法条の「違法性」について,原判決はいわゆる「義務違反的構成」を前提に,控訴人らが主張する利益は単なる「事実上の利益」(それはいわゆる「反射的利益」という趣旨であると思われる)に過ぎないとして,違法性を否定している(控訴理由書第5項,20頁以下)。
   しかし,このように厳格な義務違反的構成については学説上批判がされているし(塩野宏「行政法U行政救済法(第4版)」281頁,宇賀克也「国家補償法」78頁以下,西埜章「国家賠償法」57頁など),判例上も筑豊の塵肺被害者が国に対して損害賠償を求めた訴訟(いわゆる筑豊塵肺訴訟。最判平成16年4月27日民集58巻4号1032頁),水俣病被害者が国に対して損害賠償を求めて訴訟(いわゆる水俣病関西訴訟。最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁),在外の原爆被爆者が国に対して損害賠償を求めた訴訟(いわゆる在外外国人被爆者訴訟。最判平成19年11月1日民集61巻8号2733頁)など,当該根拠法規による保護が控訴人ら個別関係者の利益を公益とは区別して直接に保護するという要件(個別的保護要件)を要求されていないものもある。
   また,内閣総理大臣の靖国神社参拝が違憲であるとして国に対して損害賠償を求めた訴訟(いわゆる内閣総理大臣靖国神社参拝違憲訴訟。大阪高裁平成17年9月30日訴月52巻9号2979頁)のように,被侵害利益の評価とは別に,侵害行為の違法性の判断が行われている例もある。
   控訴理由書第5項(20頁以下)で述べたとおり,国家賠償法上は法治主義担保機能が重視されるべきとの基本的な考え方からすれば,国会賠償法の「違法性」判断に,上記個別的保護要件を必要とする原判決及び被控訴人国に主張は妥当でない。
(2) また,前記のとおり,控訴人らには歯科技工士法及び日本国憲法14条1項に拠り,「『歯科技工業務を独占的に行うことができる利益』について被控訴人国から不合理な差別的取り扱いをうけることがされない法的地位乃至権利」が控訴人個人に認められる。それが「歯科技工士の法的地位」の内実であり,「法律上の利益」といえる。
  したがって,仮に本件においても上記個別的保護要件が必要とされるとしても,控訴理由書第5項(2)(3)(控訴理由書21頁以下)で述べたことに加え,上記「歯科技工士の法的地位」に対する侵害乃至はそのおそれが現に生じているのであるから,国賠法上「違法性」は認められる。

5 小括
以上から,「歯科技工士の法的地位」を日本国憲法14条1項に基づき再構成することにより,本件において控訴人らに「法律上の利益」が認められ,行政事件訴訟法上の「法律上の争訟」「確認の利益」,国家賠償法上の「違法性」がそれぞれ認められる。
 
第2 答弁書に対するその他の反論
 1 平成17年通達について
  (1) 被控訴人国は,答弁書において,平成17年通達について,「その内容からみて,本件通達が,歯科技工の海外委託を誘発し,促進するものでないことは明らかである」と述べている(答弁書6頁)。
    しかし,その内容を読むと,確かに,本件通達には歯科技工の海外委託を誘発・促進する内容が明記されていない。しかし,本件通達は,歯科技工の海外委託については容認することを前提としたうえで発せられたものであることは,本件通達の内容を読めば明らかである。そして,その結果,後述するとおり,歯科技工の海外委託が誘発・促進されているのも事実である。
  (2) 被控訴人国は,本件通達の発出後,歯科技工の海外委託が増加したという点について,発出の経緯や発出の時期に照らせば,本件通達が歯科技工の海外委託を誘発・促進したとする控訴人らの主張には根拠がないと反論する(答弁書6頁)。
    しかし,海外委託の仲介業者のチラシなどに,本件通達をもっていわばお墨付きを得た旨のことが明記されている(甲8,甲23の1など)。したがって,本件通達は,歯科技工の海外委託を誘発・促進している役割を果たしていることは明白である。

 2 「保団連海外技工物緊急調査結果報告書」(甲39)について
    被控訴人国は,「保団連海外技工物緊急調査結果報告書」(甲39)について,統計的資料としての信用性について問題があると述べている(答弁書6頁乃至7頁)。
    しかし,この調査を行った保団連は,患者、国民の健康を守り,医療現場の声を反映して医療改善運動に取り組んでいる医科・歯科一体の団体であり,会員は全国に約10万人を擁し,様々な社会的活動を行っており,社会的信用性が高い団体である。このような団体が行った調査であることに加え,その調査結果をみると,歯科技工の海外委託の実態の一端を明らかにしていることは確かであり,その調査結果は十分に信用できるものである。

 3 歯科医師が行う歯科技工に歯科技工士法の規制が及ばないとの主張について
   被控訴人国は,歯科医師が歯科技工を海外に委託する行為は,歯科技工士法2条1項但し書の除外規定により歯科技工士法の規制が及ばないと主張する(答弁書8頁乃至9頁)。
   しかし,この主張が誤っていることは,原審原告準備書面(1)3頁以下,同準備書面(3),同準備書面(4)で繰り返し述べてきたとおりである。仮に被控訴人国の解釈を前提にすれば,日本国内で歯科医師が無資格者に歯科技工を行わせた場合にも,当該歯科技工は歯科医師の行為とみなされることになる。しかし,それではわざわざ歯科技工士法が,歯科技工行為を抽出し,無資格者による歯科技工を禁じる等の措置をとったことが全く意味をなさなくなる。
   被控訴人国の上記主張は,歯科技工士法2条1項ただし書きの解釈を誤ったものであると言わざるを得ない。

 4 広告制限違反について
   被控訴人国は,控訴人らが歯科技工の海外委託に係る仲介斡旋業者の広告が歯科技工士法26条に違反すると主張している点について,対象となる広告が具体的に特定されていないし,歯科技工の海外委託に係る広告の違法が直ちに歯科技工の海外委託の違法となることについて,何ら合理的説明がないと反論する(答弁書9頁)。
   しかし,控訴理由書第2項3(控訴理由書9頁以下)において,仲介業者のチラシ等に記載されている内容を具体的に紹介している。また,同理由書第3項2(同理由書14頁以下)では,それが歯科技工士法26条に違反する根拠について述べている。さらに,同理由書第4項3(同理由書17頁以下),同理由書第5項2(2)(同理由書23頁)で,このような違法な状態は容易に知り得るにもかかわらず,被控訴人国が何らの措置もとらずに放置しているがゆえに違法であることを述べている。
   したがって,被控訴人国の上記批判は,いずれも失当である。

5 歯科技工の海外委託の安全性確保について
  被控訴人国は,控訴人が海外で作成された歯科技工物の安全性を担保するものが何もないことを問題としていることにつき,歯科医師の裁量の下に確保されると反論している(答弁書10頁)。
  しかし,個々の歯科医師においては,海外で作成された技工物については,日本国内で作成された技工物と異なり,その歯科材料,技工所,技工者等に関する情報は与えられておらず,また,仮に与えられたとしてもそれを確認すべきすべがないのが現状である。そのような状況のもとで,海外で作成された歯科技工物の安全性について,国が関与することなくすべて歯科医師の裁量に委ねていることに対して,多くの歯科医師が安全性を担保することが不可能であると答えている。現在保団連では,歯科技工の海外委託の実態について患者を含めた第二次調査を実施しており,その調査結果からも上記実態が伺えるし,歯科医師成田博之氏の陳述からも伺える(なお,第二次調査の結果については,年度内にとりまとめることが予定されており,それを踏まえた反論を予定している)。
  歯科医師の裁量のみで国民の歯科治療の安全が保たれるという被控訴人国の上記主張は,歯科技工の海外委託の実態を全く無視した机上の空論である。

第3 まとめ
   以上述べたとおり,原判決及び被控訴人国の主張は,いずれも歯科技工の海外委託の実態を踏まえない主張であり失当である。控訴人としては,原判決は不当であるから破棄され,控訴人らの請求が認められるべきと考える。

以上


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2009年02月18日

第二回控訴審報告

あくまで速報です。
後日本部にて詳細を精査して報告をさせて頂きます。

まず、証人申請につきましては、書面及び陳述書で公判が維持できると判断され却下されたようです。

しかし、このまま結審ではなく第三回公判が4月15日に決まり
そこで結審の可能性が高くなりました。
このままいけば6月には判決が出るとの事です。


                以上
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2008年12月20日

控訴審第一回報告書

控訴審第一回報告書

事件名   平成20年(行コ)第347号 損害賠償等控訴事件
日 時   平成20年12月17日(水)午後2:10(雨)
法 廷   東京高等裁判所 第817号法廷
傍聴人   26名

裁判官   裁判長  裁判官  山 本   博
裁判官 森   邦 明
裁判官 藤 岡   淳
       書記官  森 谷 五 月

控訴人   脇本征男 ほか79名
控訴訴訟代理人弁護士  工 藤 勇 治
弁護士  川 上 詩 朗
       弁護士  岩 崎 泰 一

被控訴人  国    
被控訴人指定代理人    名 島 亮 卓
増 田 勝 義
山 本 浩 光
鳥 山 佳 則(代)
和 田 康 志(代) 

審理の進行状況 
(メモによる記録から再現します)

【裁判長】控訴人からの控訴理由書を受理します。被控訴人からの答弁書も受理します。控訴人から他に述べる事はありますか。

【川上】 今後の審理については実態に基づく証拠調べの為に「証人2名」の申請を致します。それにより事実関係を確認して進めてもらいたい。

【裁判長】国側に意見を求めます。

【国】 法律上の争点なので必要ありません。

【裁判長】その理由は何ですか。

【国】  必要が無いから。

【裁判長】控訴人は証人をいつ頃までに準備できますか。

【川上】 引き延ばしするわけではありませんが、予定している一人が青森県ですので、交通の便などでだいたい2月くらいはかかりそうです。

【裁判長】それでは準備してください。2月13日までに証人の陳述書の提出は出来ますか。

【川上】 出来るだけ提出できるよう努力します。

【裁判長】次回は平成21年2月18日(水)午後1時15分です。本日はこれで閉廷します。



20-12-17kousosinn-dai1kai.pdf


控訴審報告をお読みになりいかが感じたでしょうか
我々歯科技工士は目の前のお得意様のみを視野に入れていては
いけません。
少なくとも医療に少しでも携わる以上、目を背けてはならない
事があります。

保団連の緊急アンケートの方も27日までとなっております
どうぞ宜しくお願い致します。

27日までに下記のメールアドレスに送るか
下記の番号までFAXして頂けると幸いです


メールでの回答は  wakimoto@bc.iij4u.or.jp

FAX
 
03−3868−0170です。脇本まで

技工士アンケート20.12.9.doc


question-20.12.9.pdf
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2008年12月18日

国の答弁書について

国の答弁書について

1、 国の答弁書の内容(要旨)

(1)業務独占の地位について
歯科技工士の業務独占の趣旨は公益的観点に基づくものであり、
これを超えて、個々の歯科技工士に対して、個別具体的に
独占業務を行うことができる法的地位を保障したものと
解することはできない(3頁〜4頁)
 歯科技工に関して資格制を採用していることのみをもって
直ちに個々の歯科技工士に対して歯科技工業務の独占を法律上の
利益として保障したと解することはできない。ましてや、
歯科医師法1条により、かかる歯科技工業務の独占が法律上の
利益として保証されていると解することもできない(4頁)

(2)法律上の争訴・確認の利益について
 業務独占の地位が法律上の利益にあたらないこと、
行政庁の合理的裁量に委ねられていることから
本件確認の訴えは法律上争訴にあたらない(6頁)
 本件通達が歯科技工の海外委託を誘発し、促進するものではない。
保団連の報告書は、統計的資料としての信用性に問題がある。(6〜7頁)同じ理由により確認の利益も認められない(7頁)

(3) 国家賠償法1条「違法」について
国賠法1条の「違法」とは、公務員が個別の国民に対して負担する
職務上の法的義務に違反し、当該国民の法律上保護された権利利益を
侵害したことが要件であるがその要件が認められない(8頁)
 歯科技工の海外委託は、歯科技工士法及び歯科医師法に反するとは
認められない。歯科医師が歯科医療の質の維持・向上を図り、
これにより国民の健康を確保する責務を負う。その一環として
歯科技工士をも活用するが、それに対して歯科技工士法の規制が
及ばない(9頁)
 仲介業者の広告が歯科技工士法26条に違反すると主張するが、
対象となる広告が具体的に特定されておらず、歯科技工の
海外委託に係る広告の違法が直ちに歯科技工士の
海外委託の違法となることについて何ら合理的説明がない(9頁)
歯科技工の安全性については、歯科医師の裁量の下に確保されること
アメリカの例も根拠がないこと、関税上は「義歯及び歯用の取付用品」
に該当することからすればすべて「雑貨」として輸入されているわけではないことから、問題ない(9頁〜10頁)
憲法14条違反については、@歯科技工の海外委託の問題は
立法裁量の問題であること、A国外作成補てつ物等を
用いることのみをもって直ちに国内歯科技工士との間において
不合理な扱いが認められているわけではない。
また、具体的な措置は合理的裁量に委ねられている(10頁〜11頁)

2 国の答弁書の問題点
―歯科技工の業務独占の地位(法律上の利益)を形式的に捉えている。
法律上の利益は、歯科技工の海外実態を踏まえて実質的に捉えるべきである。

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控訴審〔第一回公判〕報告会 挨拶 

平成20年12月17日(水)PM15:00〜17:00 
衆議院第二議員会館 第二会議室


控訴審〔第一回公判〕報告会 挨拶 

     代表 脇 本 征 男

師走の押し詰まった足もとの悪いご多忙の中、控訴審第一回公判傍聴、並びに公判報告会にご出席を賜り、誠にありがとうございます。
いつもは弁護士会館での報告会なのですが、此処へきて司法界もご繁忙の様で川上弁護士にはいつもより早くお願いしていたのでありますが、どうしても部屋を確保することが出来ず申訳ありませんでした。
困った時の「先生頼み」で、基本的に、実質的にいつもお世話になっている衆議院議員金田誠一先生に急遽お願い申し上げましたところ、快くお骨折り頂きまして、このお部屋をお借りすることができました。その上、ご多忙の中、報告会にもご出席を賜り、重ねて心から御礼を申し上げます。

さて、現在まで原告初め、各界各層の多大なご支援ご協力を賜わりながら、ここまでやっと辿り着けたことは、心から感謝申し上げるより他ございません。
この度、不本意にも控訴審に臨むにあたり、これまで名乗ってまいりました時々の会の名称を統一し、「違法入れ歯断固阻止・歯科医療を守る国民運動推進本部」と致しました。
法廷外活動として、この12月1日をもって名称も新たに広く全国的にアピールし、訴訟の目的趣旨の徹底を図り、国民に歯科医療の安心・安全確保を訴えて参りたいと考え行動して参ります。

 その一貫として12月14日付けをもちまして、素人の手作りではございますがこれまでの御礼と、今後のお願いを込めまして資料作りをし、お世話に成った方々に全国向け614通の発送作業を完了させて頂きました。

 又、インターネット時代でございますので、素人能力の寄せ集めで超完全なものとは行きませんが、少しでも真実と情報を開示しご理解を得ながら、ご意見を伺うために、これも今までのものをリニューアルさせて頂きました。
重ねてご利用頂きたいとお願い申し上げます。

 お願いの三本柱として、1、地域にネットのアンテナ打ち立てでございます。地域の代表者に限りません。訴訟の趣旨にご賛同頂き、ご自分のできる範囲で情報の受送の可能な方は是非申し出で願いお手伝い願いたいと思います。
2、支援金のお願いでございます。できるだけ多ければ多いほどありがたい訳ですが弁護士費用の他に活動、運営費もかかります。
現在、500万円を目処にお願いいたしております。
何しろ原告訴訟人の持ち出しでやっておりますので組織的バックもなく、皆さんの善意のご支援におすがりするより原資を捻出する方法がありません。
このたびの発送物の中に、全国どこの地域でも可能な口座を開設し「郵便振替用紙」を入れさせていただきました。今までの銀行振込と合わせてご利用いただければ幸いです。重ねてお願いを申し上げます。

3、支援者名簿ご署名のお願いでございます。
現在までの実践例から学習の結果、目標を20万筆が効果的と決断致しました。
今日現在、9、939筆のご協力を頂戴しております。用紙はコピーでも可能で、HPにも入力してございますのでより一層のご協力をお願い申し上げます。

また、今回より、ご出席の皆さまには出席表のご記入をお願いいたします。代わりにお名刺でも結構でございます。

これまで私たちのHPの中から、部分的に転載して、他のHPに貼り付けている事例が見受けられます。申し訳ありませんがそのような事は、ご遠慮願いたいと思います。その場合には、私共のHPアドレスを紹介して下さるようお願い致します。
一審判決日9月26日の取材記事が某紙に掲載されておりましたが、その内容は事実と異なるものでした。正確な情報の伝達をお願いいたします。
事実に異なる記事というのは
裁判終了後、正式な報告会と業界紙の記者会見を兼ね6時からの予定とお知らせ致しており、事務員のいないために、報告会に向けて役員による「当日の判決文のコピー」や「判決文に対する抗議文作成」等資料作りの時間であったはずですが、その記者の方は「記者会見の時間」と勘違いされたものと思います。
「スポーツ新聞を見ている者がいる」
「いつになっても始まらない」など、抗議の記事を写真入で掲載されたものです。準備に入る前に記者の皆さんの前で説明会を行いましたが、その事は全く触れられていない不当な内容のものでした。当方にとっては、誠に不愉快な事態でありました。当日、急遽、4時ころからテレビ局などが入った記者会見が「司法記者クラブ」で行われ、夕方のTVニュースで放映となっておりました。
私共も特に業界紙の皆さん方には人一倍お世話になり、今後も業界維持発展にはお互いに協力し合い、寄与して参りたいと強く考えております。
不慣れのため多分なご迷惑をおかけすると思いますが、誤解のないよう運営して参りたいと思います。今後ともよろしくご教導の程をお願い申し上げます。
次回公判は2月18日(水)午後1時15分からと決定されました。
本日の公判では原告側が「海外委託の実態に即した判断を得るため」二人の証人申請をしましたが、国側はあくまでも「法律が争点なのだから必要ない」という構えであります。その辺でも両者の法律の解釈において乖離しています。
控訴審の通例では一回で結審と言うことがままあることだそうですが、いたずらに公判を延ばすことは望みませんが、後悔しないように可能な手段は惜しまない体制で参りたいと思います。仔細は川上先生の方からお願い致します。
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2008年10月02日

終わりが始まり

平成20年10月1日

終わりが始まり

             歯科技工の海外委託問題訴訟原告団 代表 脇 本 征 男
 歯科技工士の私が、まさか裁判など起こすことは考えもしなかったことですが、初めての経験でした。そして全て棄却、全面敗訴でした。門前払い同然の判決です。
その瞬間、覚悟はしていたものの茫然自失、実に情けなく、悔しかったです。報告集会終了後会食を拒否し、ポスト外交のため夜半の閑散としたビル街を一人急ぎながら、眼の奥から痛みを伴って涌き出る執念、怨念の残骸で、鼻頭がジーンとしびれぼやける視界で歩き続ける自分がいました。

確かに確固たる組織が有りながら、個人で訴訟を起こすことのハードルは、実際にやってきた者でなければ跳び越えることのできない厳しいものがあります。
組織ぜんとしていれば、機構に従い、施策、方法、準備、実行すべて型にはめて誰にでもできます。しかし、目的はひとつ、「国を相手に訴訟を起こす」との志で任意に集まった塊であります。誰が代表になってもおかしくない、みんな優秀な人材だけに、個性的で、何度となく一触即発の危機は乗り越えなければならなかったことは事実です。
それでも一度たりとも苦しいとか、放り投げようとか思ったことはありませんでした。
それは、今あり、将来を考える時、この訴訟を通して「歯科技工士」がいかに資格者として業界で大切な役目を担って仕事を為しているか、知らしめたいからであります。

まさに今、閉塞的な歯科業界にあって、国民の皆さんに歯科技工士の顔が少しずつではありますが見え始めつつあるのではないでしょうか。
自らの職業に自信を持ち、生き甲斐を見い出し、将来設計ができ、老い先までを夢見ることのできる職業だったら、誰も好き好んで若い身空で、他に転職、廃業、最悪な縊死など、悲しい結末は選ばないことでしょう。

今でこそ生活現状での悲惨事象を数えても両手に余るくらい多いなか、国は「歯科技工士」は確かに資格制度で免許はあるものの、「歯科医師の補助を為していればいいことで、地位保全などと訴える主体性はない」ということです。
まるで「法」成立以前の昔、誰に歯科の補助をさせても良かった時代に逆行の感があります。

「国内法だから海外の無資格者に歯科技工行為を委託しても良い」??????。
それも、歯科技工士法の「定義」2条の歯科医師が自ら治療している特定人(患者)の補綴を行うと同等に「歯科医師自らの行為として委託しても良い」と言うことです。
法の定義は「歯科医師が自ら治療している患者の補綴物作成は、技工とは言わず、治療行為と見なされる」ということであります。

法律上、少なくても「治療の一環」である重要な「補綴物作成」を、わが国の有資格者である歯科技工士ではなく、海外の無資格者に委託する歯科医師の医療人としての倫理感を疑います。あくまでも、国内の歯科医療現場における経済的なメリットだけを求めた、違法行為であると断ぜざるを得ません。
先の日歯への協力申し入れの時点で、対応して頂いた常務理事の先生が、「歯科医師がやっている訳がない。やっているとしたら技工士か業者にだまされているのだ。」と断言なさいました。現実に、愛知県で開業されており、テレビ東京と読売の記事で実名報道された先生は、一体何者なのでしょうか。
こういう所にも現状の歯科医療業界の恥部がはっきりと浮き彫りにされております。

 幸いなことは、裁判所の判断で「一般に、業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果、歯科技工士法上又は条理上、所轄行政庁においてその違反の有無について調査し、その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められる。」との一定の国の責任を認知したことであります。
つまり、今までの口頭弁論で国は、歯科技工士には「業務独占は無い」との一貫した主張でした。同時に国は、「条理上」という解釈を示したことは一度もなかったことを、裁判所は認知してくれたということです。
 
 結果的に肝心な海外委託の問題に踏み込まず、残念ながら門前払いの判決となった訳ではありますが、したがって、海外委託そのものが、合法か、違法かは、上級審の判断如何に持ち越されることになっただけであり、訴えが却下されたからといっても、即、歯科技工の海外委託が「合法」と考えることは早計であり、大きな間違いです。

 私たちはこの訴えで、自分たちの権利主張のみを声高に叫んでいるような裁判所の捕らえ方でありますが、自らの仕事が無くなるとか、経済的に大きな損失であるからとかではないのです。
まさに裁判所が主張する「歯科医療を受ける国民の健康を確保するため、一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものである。」 このために、制定された歯科技工士法に「17年通達」は違反していないのかを問うているのです。
上級審では「事実上の利益」にとどまらず、歯科技工士の法的利益の主張と、「当該行政庁の合理的な裁量」とする舞文弄法との闘いになろうかと思われます。

 これまで各方面の、多大なご支援、ご教導、そしてご援助を賜り、身に余る光栄と心からの敬意と感謝を申し上げます。
当初の公約通り、10月2日、東京高等裁判所あて控訴手続きを完了いたしました。
冒頭、訴訟的確から「入り口突破」を図り、今度こそ内容の審理にじっくり戦法を整えて臨まなければならないと決意も新たに覚悟いたしております。
一審は不服ながら終わりました。今日から高等裁判所での闘いの準備がはじまります。
より一層のご支援ご協力の程を伏してお願いを申し上げ、ご報告とはじまりの所信の一端とさせて頂きます。
                                    以上

終わりが始まり1.JPG終わりが始まり2.JPG

ダウンロードファイル
終わりが始まり.pdf
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2008年09月27日

原告団及び弁護団声明(修正文)

原告団及び弁護団声明

本日,東京地方裁判所第2民事部(岩井伸晃裁判長)は,全国の歯科技工士80名が,国に対し,海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認すること等を求めた訴訟において,原告らの請求を退ける不当な判決を下した。

 患者の口腔内に装着される義歯等は,なによりも安全なものでなければならない。そのため,歯科技工士法は,歯科技工士制度を設け,歯科技工士または歯科医師でない者(無資格者)による歯科技工を禁じるなど厳しい規制を及ぼすことで,粗悪な義歯等が作られることのないようにしている。ところが,昨今,海外に歯科技工を委託することが増えるに連れて,無資格者が海外で技工した義歯が輸入されて患者の口腔内に装着される事態が生じている。このような事態を放置しておくことは,歯科技工士制度の根底を崩壊させるものであり,国民の安全な歯科治療を確保しようとした歯科技工士法の趣旨を失わせるものである。
しかも,国内においては,歯科技工に利用する材料の安全性について厳しく規制されているのに対して,海外での歯科技工に関しては,日本自ら材料の安全性を検証することはできない。このように,歯科技工の海外委託には多くの問題点が指摘されているにもかかわらず,国は歯科医師の裁量に委ねるだけであり,実態調査すらもおこなわずに歯科技工の海外委託を放置している。
そこで,原告らは,国民への安全な歯科治療を守るために,国に対して,海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることの確認を求めるとともに,国は海外委託の実態調査すべき義務などに違反するなど違法な行為を行っていることなどを理由とする損害賠償を求めて提訴した。

これに対して,本判決は,歯科技工の海外委託の実態に何ら言及することなく,法律上の利益及び確認の利益がないといういわゆる入り口論で確認の訴えを却下するとともに,国は個々の歯科技工士に対して職務上の法的義務を負担していないとの理由で,損害賠償請求も棄却するという不当な判決を下した。

 原告らは,歯科技工の海外委託が許されないということについて明確な判断を求めたにもかかわらず,本判決はその判断を回避した。したがって,本判決によって歯科技工の海外委託が許されたわけではないことに留意すべきである。
 むしろ,本判決は,「一般に,業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果,歯科技工士法上または条理上,所轄行政庁においてその違反の有無について調査し,その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められる」と述べている。これは,無資格者による歯科技工等が認められる場合には,その違反の有無を調査し,それを止めるよう指導すべき国の責任を明確に認めたものである。
歯科技工の海外委託においては,無資格者による歯科技工が行われているとの問題点が繰り返し指摘されていることからすれば,国は,本判決が指摘したように,歯科技工の海外委託に関して違反の有無を調査し,それをとめるよう指導すべきである。

原告団及び弁護団は,本判決を不服としてただちに東京高等裁判所に控訴するとともに,本日の判決を機に,国民の安全な歯科治療の実現のために不可欠な歯科技工士制度を維持・発展させる見地から,歯科技工の海外委託問題を最終的に解決するために最後まで戦い抜く所存であることを表明し,本判決に対する声明とする。

2008(平成20)年9月26日

          歯科技工海外委託問題訴訟原告団 団長  脇 本 征 男
          歯科技工海外委託問題訴訟弁護団 団長  川 上 詩 朗

ダウンロードファイル
080926原告団及び弁護団声明(歯科技工)修正.doc

改めて「判決文」を

平成20年9月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平口頭弁論終結日 平成20年6月20日
成19年(行ウ)第413号損害賠償等請求事件

判     決

原 告 別紙原告目録記載のとおり
告ら訴訟代理人弁護士          工藤 勇治
同 川上 詩朗
原告ら訴訟復代理人弁護士 岩崎 泰一
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被 告 国
代表者法務大臣 森 英介
指 定 代 理 人 名島 享卓
同 浅川 晃
同 山本 浩光
同 鳥山 佳則
同 和田 康志

主    文
1 原告らの本件確認の訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は, 原告らの負担とする。


事 実 及 び 理 由
(本件確認の訴え)
1 原告らと被告との間で, 原告らに海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認する。
(本件賠償請求)
2 被告は,原告らに対し,各自10万円及びこれに対する平成19年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は, 歯科技工士である原告らが, 被告に対し, (l)歯科医師による歯科技工の海外の業者への委託により歯科技工士の免許を有しない海外の業者が作成した補てつ物等が輸入されて歯科医療に使用される事態が生じており, 被告がこれを放置しているため, 原告らの歯科技工士と しての地位が侵害されているとして. 被告による適切な監督権限の行使がされるよう, 「海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」の確認を求める(本件確認の訴え)とともに,(2)上記(l)の海外の業者への委託及び輸入・使用につき実態を調査して規制をすべき義務に違反し, これを歯科医師の自由裁量にゆだねて事実上許容するなど, 被告の違法な行為により原告らは精神的苦痛を受けているとして, 国家賠償法1条1項に基づき, 各原告につき慰謝料各100万円のうち10万円及び遅延損害金の支払を求めている(本件賠償語求)事案である。

1 関連法令の定め

(1) 歯科技工士法
ア 歯科技工士法は,歯科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とする(同法1条)。

イ(ア) 同法において, 「歯科技工」とは,特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物, 充てん物又は矯正装置を作成し, 修理し, 又は加工することをいう。 ただし, 歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く (同法2条1項)。

(イ) 同法において, 「歯科技工士」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,歯科技工を業とする者をいう (同条2項) 。
(ウ) 同法において, 「歯科技工所」とは,歯科医師又は歯科技工士が業として歯科技工を行う場所をいう。 ただし, 病院又は診療所内の場所であって, 当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除く (同条3項) 。

ウ 歯科技工士の免許(以下「免許」という。)は,歯科技工士試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して与える(同法3条)。
エ 歯科医師又は歯科技工士でなければ, 業として歯科技工を行つてはならない(同法17条1項)。
オ(7) 歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示審によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならない。 ただし, 病院又は診療所内の場所において, かつ, 患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基づいて行う場合は, この限りでない (同法. 18条)。

(イ) 病院,診療所又は歯科技工所の管理者は,当該病院,診療所又は歯科技工所で行われた歯科技工に係る上記(ア)の指示書を, 当該歯科技工が終了した日から起算して2年間, 保存しなければならない (同法19条) 。

カ 歯科技工士は,その業務を行うに当たっては.印象採得,咬合採得,試適, 装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない(同法20条)。

キ(ア) 歯科技工所を開設した者は,開設後10日以内に,開設の場所,管理者の氏名その他厚生労働省令で定める事項を歯科技工所の所在地の都道府県知事 (その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合にあっては,市長又は区長。以下,後記(ウ)ないし切において同じ。) に届け出なければならない(同法21条1項)。

(イ) 歯科技工所の開設者は, 自ら歯科医師又は歯科技工士であってその歯(科技工所の管理者となる場合を除くほか, その歯科技工所に歯科医師又は歯科技工士たる管理者を置かなければならない (同法22条) 。

 (ウ) 都道府県知事は, 歯科技工所の構造設備が不完全であって, 当該歯科技工所で作成し, 修理し, 又は加工される補てつ物, 充てん物又は矯正装置が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その開設者に対し, 相当の期間を定めて, その構造設備を改善すべき旨を命ずることができる(同法24条)。

(エ) 都道府県知事は, 歯科技工所の開設者が上記(明に基づく命令に従わないときは, その開設者に対し, 当該命令に係る構造設備の改善を行うまでの間, その歯科技工所の全部又は一部の使用を禁止することができる(同法25条)。

(オ)都道府県知事は,必要があると認めるときは,歯科技工所の開設者若しくは管理者に対し,必要な報告を命じ,又は当該職員に,歯科技工所に立ち入り, その清潔保持の状況,構造設備若しくは指示書その他の帳簿審類 (その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。 ) を検査させることができる(同法27条)。

ク 上記工の定めに違反した者は, 1年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する(同法28条1号)。

ケ 上記オの(ア)又は(イ)の定めに違反した者は, 30万円以下の罰金に処する(同法32条2号, 3号)。

(2) 厚生労働省設置法

ア 厚生労働省は, 国民生活の保障及び向上を図り, 並びに経済の発展に寄与するため, 社会福祉, 社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする(3条)。

イ厚生労働省は,上記アの任務を達成するため,医療に関し,次に掲げる事務等をつかさどる(4条)。

(ア)医療の普及及び向上に関すること(同条9号)。

(イ) 医療の指導及び監督に関すること(同条10号)。

(ウ) 医師及び歯科医師に関すること(同条12号)。

(エ)保健師,助産師,看護師,歯科衛生士,-診療放射線技師,歯科技工士,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,視能訓練士,臨床工学技士, 義肢装具士, 救急救命士, 言語聴覚士その他医療関係者に関すること(同条13号)。

(オ) 医薬品, 医薬部外品, 医療機器その他衛生用品の研究及び開発並びに生産, 流通及び消費の増進, 改善及び調整並びに化粧品の研究及び開発に関すること(同条15号)。

(カ) 医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器その他衛生用品の製造販売業,製造業,販売業,賃貸業及び修理業(化粧品にあっては,研究及び開発に係る部分に限る。)の発達,改善及び調整に関すること(同条16号)。

(キ) 医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器その他衛生用,品の品質,有効性及び安全性の確保に関すること(同条31号)。

2 前提となる事実 (当事者間に争いがない事実並びに掲記の証拠により容易に認められる事実)

(1) 原告らは, 社団法人東京都歯科技工士会に所属する歯科技工士である。

(2) 社団法人東京都歯科技工士会は, 近時, 海外において作成された歯科医療用の補てつ物,充填物,矯正装置など(以下「補てつ物等」という。)が輸入されて歯科医療に使用されていること (以下「補てつ物等の輸入使用」 という。) を,歯科技工を海外の業者に委託していること (請求の趣旨第1項にいう「海外委託による歯科技工」。以下「歯科技工の海外委託」ともいう。)によるものと位置付け,平成16年7月13日, 「歯科技工行為の海外委託の是正」を目的とした「遵法・歯科技工行為の海外委託問題対策本部」を設置した。

(3) 上記(2)の「遵法・歯科技工行為の海外委託問題対策本部」の構成員らは,社団法人日本歯科技工士会等の関係団体と協議の上, 平成17年3月11日, 厚生労働省医政局歯科保健課を訪れ, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用(以下「海外委託及び輸入使用」ともいう。)は違法であるとして, 行政上の指導・取締りを行うよう申し入れ,その後も再度,同旨の申入れを行った。

(4) 厚生労働省は,近年,インターネットの普及等に伴い,国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し (輸入手続は歯科医師自 らが行う場合と個人輸入代行者に委任する場合がある。 ) , 患者に供する事例がみられるとして,平成17年9月8日,各都道府県衛生主管部(局)長に対し, 「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」 と題する下記の内容の通達(医政歯発第0908001号)を発出し(甲1。以下「本件通達」という。), これを同省のインターネットホームページに掲載した。(甲1,乙8)



「歯科疾患の治療等のために行われる歯科医療は, 患者に適切な説明をした上で, 歯科医師の素養に基づく高度かつ専門的な判断により適切に実施されることが原則である。
歯科医師がその歯科医学的判断及び技術によりどのような歯科医療行為を行うかについては, 医療法(昭和23年法律205号) 第1条の2及び第1 条の4に基づき, 患者の意思や心身の状態, 現在得られている歯科医学的知見等も踏まえつつ, 個々の事例に即して適切に判断されるべきものであるが, 国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し, 患者に供する場合は, 患者に対して特に以下の点についての十分な情報提供を行い,患者の理解と同意を得るとともに, 良質かつ適切な歯科医療を行うよう努めること。

1)当該補てつ物等の設計
2) 当該補てつ物等の作成方法
3)使用材料(原材料等)
4) 使用材料の安全性に関する情報
5) 当該補てつ物等の科学的知見に基づく有効性及び安全性に関する情報
6) 当該補てつ物等の国内外での使用実績等
7)その他,患者に対し必要な情報」

3 争点

(1) 本件確認の訴えの適法性等
ア 法律上の争訟性の有無
イ確認の利益の有無(確認対象の適否)
ウ 確認請求の当否

(2) 本件賠償請求の成否

4 争点に関する当事者の主張

(l) 争点(l)(本件確認の訴えの適法性等)について

(原告らの主張の要旨)
ア 法律上の争訟性の有無

 歯科技工士は, 歯科技工士法により, 業務を独占する法的地位が保障されている(経済的には, 歯科医師から業務を独占的に受託し, 報酬を受け取ることができる地位が保障されている。)。このため,歯科医師は,国内では, 歯科技工士以外の者に歯科技工を委託することはできない。 しかしながら, 歯科医師が海外委託及び輸入使用をすることによって, 歯科技工士の上記法的地位が侵害されており,これを契機として,原告らの上記法的地位に不安が生じている。 海外委託及.び輸入使用は歯科技工士法の規定及び趣旨に反して違法であり禁止されるべきであり, そのことが裁判によって確認され, それによって被告による適切な監督撞限の行使がされるならば, 原告ら歯科技工士の上記法的地位への脅威が除去されて救済されることになる。
 本件において,原告らは, こうした法的地位が保全されるべき権利の確認を求めるものであるから, 本件は, 法律上の争訟に当たる。

イ確認の利益の有無(確認対象の適否)

 歯科技工士法の上記趣旨にかんがみれば, 歯科技工の海外委託及び輸入使用は禁止されており, 歯科技工士は,歯科技工士法により, 業務を独占する法的地位が保障されている。しかしながら, 歯科医師が海外委託及び輸入使用をすることによって,歯科技工士の上記法的地位が侵害されている。 この点について被告が発出した本件通達は, 海外において, 歯科技工士法に係る資格がない者によって, 指示書の交付を受けず, 都道府県知事等の監督が及ばない場所での歯科技工を許容し, それにより作成された歯科技工物の使用については, 歯科医師の自由裁量にゆだねる内容となっており, 補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科技工士の上記法的地位を侵害するものとなっている。 そのため, 業者が海外委託を斡旋し, 歯科技工の海外委託は増加しており, 原告らの存立基盤である業務独占が崩れ始め, それに伴い, 独占的に業務を受託し報酬を得る地位も脅かされている。 海外委託及び輸入使用は歯科技工士法の規定及び趣旨に反して違法であり禁止されるべきであって, そのことが裁判によって確認され, それによって被告による適切な監督権限の行使がされるならば, 原告ら歯科技工士の上記法的地位への脅威が除去されて救済されることになる。本件の確認訴訟によって, 原告らの上記地位が確認されたならば, 国は,海外委託及び輸入使用を禁止する措置をとらざるを得なくなり, 原告らの業務独占に対する危険が除去される。 したがって, 原告らは, 上記業務を独占する法的地位の確認を求める法的利益がある。

ウ 確認請求の当否

 歯科技工士法において, 海外委託及び輸入使用は禁止されており, 歯科技工士である原告らには, 被告による海外委託及び輸入使用に対する適切な監督権限の行使がされることによって, 前述の歯科技工士としての地位を保全されるべき権利がある。

(被告の主張の要旨)

ア 法律上の争訟性の有無

 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 , すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, それが法令の適用により終局的に解決できるものに限られる。歯科技工士法は, 国民の公衆衛生を確保するために歯科技工に関して資格制を採用しているのであり, このことから, 直ちに, 個々の原告らの固有の法的利益が導かれるものではない。 海外委託及び輸入使用により国内の歯科技工士制度や国民の歯科衛生の確保に重大な影響を与えることになるおそれがあるとしても, これにいかなる規制をすべきかは, 行政府ないし立法府の専権に属する事柄である。 原告らは, 結局, 国民一般の立場において,海外委託問題が歯科技工士制度や国民の歯科衛生に重大な影響を与えることから, 海外委託及び輸入使用を禁止するよう求めているのに等しく, このような訴えは,具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争について審判を求めるものではない。

イ確認の利益の有無(確認対象の適否)

 行政事件訴訟法4条に基づく確認の訴えが認められるためには, 現に原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し, これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限られる。
 しかしながら, 歯科技工士の資格を有する地位から, 直ちに個々の原告らの固有の法的利益が導かれる関係は認められない。 原告らは, 結局, 国民一般の立場において,海外委託問題が歯科技工士制度や国民の歯科衛生に重大な影響を与えることから, 海外委託及び輸入使用を禁止するよう求めているのに等しく, 原告らの主張する歯科技工士の資格を有する者という地位に現実かつ具体的な危険又は不安が存在すると主張している とはいい難い。
 また, 歯科技工士法上, 海外委託及び輸入使用が禁止されているかどうかを確認しても, そのことで, 個々の原告らの固有の法的利益が確保されるという関係にもない。 また, 仮に海外委託及び輸入使用が違法であり, かつ, 将来これらの弊害により, 個々の原告らに何らかの経済的利益の侵害が生じるおそれがあるとしても, 歯科技工士の地位に関する確認判決を得たところで, 直ちに原告らの権利利益に変動をもたらすものではなく, そのような確認判決を得ることが必要かつ適切ともいえない。

ウ 確認請求の当否
 上記ア及びイのとおり, 本件確認の訴えについては本案の答弁を要しないが, 海外委託及び輸入使用と歯科技工士法との関係については, 後記(2)(被告の主張の要旨) アのとおりである。

(2) 争点(2)(本件賠償請求の成否)について

(原告らの主張の要旨)

ア 被告の行為の違法性の有無
(ア) 法律上又は条理上の義務の有無
 a 歯科技工士法は, 無資格者が歯科技工を行うこと及び指示書によらずに歯科技工を行うことを禁止し, 指示書の保存義務を定めて歯科技工所を規制する規定を設けているところ,こうした要請は,当該歯科技工が行われるのが国内である場合と海外である場合とで異ならない。 また,歯科技工士法が,歯科技工所の開設に,その所在地の都道府県知事への届出を必要とし, 都道府県知事の指導監督を及ぼそうとしていることによれば, 同法は, 歯科技工が国内で行われることを前提としている。こうした点にかんがみれば,歯科技工士法又は条理上,海外委託及び輸入使用は禁止されていると解すべきである。
 のみならず, 歯科技工士法が, 歯科医師又は歯科技工士でなければ業として歯科技工を行つてならなぃとし(同法17条),かつ,歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃとしてぃる(同法18条)ところ,歯科技工の海外委託は,上記指示書の交付がされないまま行われていることによれば, 歯科医師が, 海外で歯科技工を行わせることも禁止されていると解されるべきである。そして, 社団法人東京都歯科技工士会が, 繰り返し海外委託及び輸入使用の問題点を指摘し, その改善を求めているいることによれば, 被告は, 海外委託及び輸入使用の実態を調査し, これを規制するよう指導すべきである。
b 本件通達によれば, 被告は, 国外で作成された補てつ物等について,使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく, 国内の有資格者による作成でないことが考えられることや, 国内の歯科技工士の知職及び技術の水準より劣位にあるものが国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃとしており, 国内の公衆衛生上問題があることを把握しているのであるから, 補てつ物等の輸入使用の実態について調査をすべき作為義務があった。

c また, 前記のとおり, 歯科技工士法は, 日本国内に設置された歯科技工所においてのみ歯科技工を認め, それ以外の場所での歯科技工は禁止する趣旨であることからすれば, 海外での歯科技工は, 資格の有無を問わず,禁止されるべきである。したがって,被告としては,海外で歯科技工が行われている実態が把握できたならば, 速やかに, それを規制するよう指導すべき義務を負っていた。

d さらに,前記のとおり,歯科技工士法によれば,国の内外を問わず,無資格者が歯科技工を行うことは認められていないし, 無資格者に歯科技工を行わせることも認められない。 したがって, 被告は,無資格者が歯科技工を行ったり, 無資格者に歯科技工を行わせている実態が把握されたならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。

e 前記のとおり, 歯科技工士法によれば, 歯科技工を行う場合には歯科医師の指示書が必要であるから, 指示書がないまま歯科技工を行うことは認められていないし, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせることも認められない。 したがって,被告は,海外において指示書なしで歯科技工を行ったり, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせている実態を把握したならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。

(イ) 法律上又は条理上の義務違反の有無

a 被告は, 海外委託及び輸入使用について, 国外で作成された補てつ物等について使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確ではなく,我が国の有資格者による作成でないことや,国内の歯科技工士の知識及び技術の水準より劣位にある者が国外で補てつ物等を作成している可能性がないわけではないことなど, 国民の公衆衛生上問題があることは認識している。しかしながら,被告は,海外委託及び輸入使用の実態を把握しておらず, これに係る十分かつ正確な情報を収集するっもりはない態度を示している。

b また,被告は,本件通達において,各都道府県衛生主管部(局)長に対して, 「患者に対する十分な情報提供を行い, 患者の理解と同意を得るとともに,良質かつ適切な歯科医療を行うよう努める」ように歯科医師を指導するよう指示し, それを同省のインターネットホームページに掲載しただけであり,それ以外の指導は行っていない。

(ウ) 憲法14条違反の有無国は, 無資格者が歯科技工を行うことについて国内では厳しく規制しているのに対し,海外ではこれを許容しているが,こうした差別に合理的な理由はない。このような区別は,窓法14条に違反する。

イ 原告らの損害の有無

(ア) 歯科技工士法は,歯科技工士の歯科技工士業務の独占を認め,歯科技工士としての法的地位の確立向上を図るとともに, 国民の公衆衛生の確保を図ろうとしているが, これは被告の上記の義務違反により脅かされており, これにより, 個々の原告らも, 自らの生活基盤である業務独占が完全に崩壊するのではないかとの不安を抱かざるを得ない状況に置かれるようになっており,精神的苦痛を受けている。
 また, 海外委託及び輸入使用に対して何らの規制も及ばないとするならば, 無資格者による粗悪な補てつ物等が歯科医療の用に供されるおそれがあるところ, これは, 国民の公衆衛生を害するおそれがあるものであり, 歯科技工士である原告らにとって耐え難い苦痛である。 原告らは繰り返し被告に対し是正を求めてきたが, 現在に至るまでに是正されていない。 このことは原告らの苦痛を更に増大させている。

(イ) 被告は, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償の要件である旨主張するが, 国家賠償法は, 単に違法性を要件とする旨定めているだけであり, 「職務上の法的義務」 を要件とすべき根拠はない

(ウ) 仮に, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償請求の要件であったとしても, 被告は歯科技工に関して指導監督する権限と責任を有しているので (厚生労働省設置法3条1項, 4条9号, 10 号, 12号, 13号, 81号),被告は,歯科技工士法上ないし条理上, 海外委託及び輸入使用について調査し, その実態を把握した上で, 海外委託及び輸入使用を禁じている歯科技工士法ないし条理に適合するように, 海外委託及び輸入使用を止めるように指導すべき義務を負っており, この義務は, 歯科技工士としての資格を有する個々の原告ら個人に向けられたものである。

(被告の主張の要旨)

ア 被告の行為の違法性の有無

(ア)法令上又は条理上の義務違反の有無

 歯科技工士法が禁止しているのは, 本邦において歯科医師又は歯科技工士以外の者が業として歯科技工を行うことであって, 歯科医師が診療中の患者に対し自らの責任において海外で作成された補てつ物等を用いることを禁止するものではない。 歯科医師が海外で製作された補てつ物をその歯科医療行為に使用するのは, 歯科技工士法2条ただし書にいう「歯科医師がその診療中の患者のために自ら行う行為」 に当たり, 同法の適用を受けないことは, 同法上も明らかである。歯科医師が, 国外で作成された補てつ物等を輸入して患者に提供する場合は, 歯科技工士法上は, 歯科医師自らが歯科技工を行う場合に属する問題であって, 患者を治療する歯科医師が歯科医学的知見に基づき適切に判断し, 当該歯科医師の責任の下, 安全性に配慮した上で実施されるべきものである。こうした歯科医師の診療行為は,歯科医師法等により規制されるのであり, 歯科技工士法による規制を受けるものではない。

(イ) 憲法14条違反の有無

 歯科技工士法は, 国内における歯科技工に関して不当な規制ないし取扱いをしているものではなく, 海外による無資格者による歯科技工の問題について, いかなる規制を行うかは立法府の裁量の範囲内に属する事柄である。 補てつ物等の作成に係る制度は国によって様々であり, また国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準も様々であるため, 国外で作成された補てつ物等を用いることのみをもって, 直ちに国内の歯科技工士との間において, 不合理な扱いが認められるものではない。

イ 原告らの損害の有無

(ア) 国家賠償法上の違法が認められるためには, 公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。 そして, この権利利益の侵害の有無については, 権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係で, 職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり, 職務上の法的義務であっても, 専ら公益的なものや行政の内部的な義務等, 個別の国民に対して負担する義務でなぃものにっいては, 国家賠償法上の違法の判断の対象とならなぃとぃうべきである。しかしながら, 原告らは, 海外委託及び輸入使用が国民の公衆衛生を害するおそれがあることによる苦痛をいうにすぎず, 結局, 国民一般が有する地位に基づいて主張するものであって, 個別の国民が有する具体的な法的利益を主張するものではない。 本件では, 海外委託及び輸入使用について, 歯科技工士制度を維持し, 国民の公衆衛生の確保に資するとの観点から適正な規制が求められるとしても, それは国民一般との関係で広く求められる事柄であって, そのことから直ちに, 原告らに向けられた職務上の権限を行使すべき法的義務を観念することはできない。

(イ) なお, 歯科医師が行う歯科診療行為以外の歯科技工は歯科技工士法の適用を受けるところ, 歯科技工の業が歯科医業を補足する性質のものであり, できれば歯科医師自らが歯科医療行為の一環として行うことが本来の姿であることからすると, 同法17条1項は, 歯科医師についても業として歯科技工を行うことができる旨定めたものと解することができる。 このように,歯科技工士法が歯科医師が行う歯科技工を含む歯科診療行為を規制の対象から除外しているのであるから, 同法が, 歯科技工士による業務独占及びこれによる経済的利益を保障するものであるとぃうことはできなぃ。

第3 当裁判所の判断

1 歯科技工士法の規制の趣旨等について

(1) 歯科技工士法は, (ア)@歯科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とし(同法1条),A歯科技工の業務につき,その主体を歯科医師又は歯科技工士 (厚生労働大臣の免許を受けた者) に限定し, その実施を歯科医師の指示書又は直接の指示による場合に限定した上で (同法2条2項, 17条1項, 18条1項),病院,診療所又は歯科技工所の管理者に上記指示書の一定期間の保存を義務付け(同法19条),これらの規制の違反に対しては刑事罰の制裁を設けるとともに, B都道府県知事に,(a)歯科技工所の開設者又は管理者に対し, 必要に応じて報告を命じ, 清潔保持の状況, 構造設備又は指示書その他の帳簿審類の検査を実施する権限を付与した上で, (b)歯科技工所の構造設備又はその作成等に係る補てつ物等が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その構造設備につき改善命令を発し, その違反に対しては歯科技工所の使用禁止命令を発する権限を付与しており, (イ)他方で, 歯科技工士が国に対し上記(ア)Aの規制に係る措置につき何らかの請求等をすることを認めた規定は存しない。そして, 歯科医師法は,歯科医師につき, 歯科医療及び保健指導を掌ることによって, 公衆衛の向上及び増進に寄与し, もって国民の健康な生活を確保することをその任務として定めている。
 また,証拠(甲2並びに乙1, 2及び7)によれば,@昭和30年の歯科技工士法の制定当時, 義歯等の補てつ, 充てん及び矯正に属する歯科治療技術の需要が高まったにもかかわらず, 歯科医師の数がこれを満たすには十分 でないため, 補てつ物等の作成, 修理又は加工を外部の技工者に委託する場合が多くなっていたが, これらの受託者については法的規制が加えられておらず, 職業教育を受けた者は少数で, 大部分は徒弟見習として習熟した者であるなどの実情にかんがみ, 歯科技工士の資格を定め, その資質の向上を図るとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し,歯科医師の業務の適正を補足させることによって, 歯科医療の普及と向上に寄与することが, 同法の法案の提案理由であったことが認められ, A昭和30年10月12日厚生省発医第110号各都道府県知事宛て厚生事務次官通知(乙7) には,同法の制定の趣旨等について,(a)同法は,歯科技工士の資格を定めてその資質の向上を図るとともに, 歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医師の業務が適正に補足されることを目的とするものであること, (b)歯科技工の業務は高度の専門的技術が要求されるものであるにもかかわらず, それまで何らの規制が行われることなく放任されていたため, 粗悪な補てつ物等が作成され, 歯科医療に多くの支障を来した事情にかんがみ, 歯科技工の業務は歯科医師及び歯科技工士の業務独占としたものであること等が記されている。

(2) 以上の歯科技工士法及び関係法律の諸規定並びに制定の趣旨等に照らすと,歯科技工士法が歯科技工の業務の主体を歯科医師及び免許を受けた歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けたのは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 業務独占の結果として一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという経済的利益は, 上記目的に基づく当該規制の結果として随伴する事実上の利益にとどまり, 同法において個々の歯科技工士の個別的利益として保護された法律上の利益に当たるものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制につき具体的な措置の実施を請求する権利は認められていないものと解するのが相当である。 また, 国の所轄行政庁が当該規制につき具体的な措置を行うに当たっても, その具体的な措置の方法・ 内容については, 公衆衛生の保持という公益的・公共政策的な観点から諸般の事情を総合考慮した上で決定されるべき性質のものであるから, その方法・内容は法令上一義的に定まるものではなく, 当該行政庁の合理的な裁量にゆだねられるものと解される。

(3) これに対し, 原告らは, 歯科技工士法が歯科技工士の業務独占を認めていることから, 同法が, 個々の歯科技工士に対し, 業務を独占的に受託して報酬を得る法的地位を付与しており, 原告らの歯科技工士としての上記地位を保全するために, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の禁止を求める権利がある旨主張する。しかしながら, 原告らが上記 「法的地位」 と主張するものが, 同法による業務独占の結果と して一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益にとどまり, 法的な権利又は利益と認め得るものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制につき具体的な措置の実施を求める権利は認められていないことは, 上記(2)に説示したとおりである。

(4) 以上を前提として,以下,本件確認の訴えの適法性等(争点(1))及び本件賠償請求の成否(争点(2))について,順次検討する。

2 本件確認の訴えの適法性等(争点(1))について

(l) 法律上の争訟性の有無について

ア 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 に限られるところ, ここにいう 「法律上の争訟」 とは, 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, 法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ(最高裁平成10年(行ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁参照),このような具体的な紛争を離れて抽象的に法令の解釈又はそれに基づく 行政庁の運用の当否の判断を求めることは許されないと解するのが相当である。

イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 歯科技工士である原告らの上記法的地位が侵害されているので, 原告らに 「海外委託による歯科技工を禁止することによって, 歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 があることの確認を求める本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たる旨主張する。
しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると,・上記事項の確認を求める本件確認の訴えは, 要するに, 歯科技工士法の解釈 (同法自体の解釈又は憲法14条に則した合意的解釈)として,歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈を採るべきことの確認を求めるに帰するものというべきであり, 原告らが 「歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 と主張するものも, 上記のような解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の存在を観念し得るものではなく, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく法令の適用自体によって終局的に解決し得る事柄でもない以上, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たらないと解するのが相当である。

(2) 確認の利益の有無について

ア 確認の訴えにおける確認の利益は, 判決をもって法律関係の存否を確定することが, その法律関係に関する法律上の紛争を解決し, 当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められ(最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第二小法廷判決・判例時報1890号46頁参照),確認の利益があるといえるためには, 確認の対象とされた事項が法律関係の存否に係る適切な内容のものであり, かつ, 当事者間で当該事項を確定することにつき当該訴えを提起した者が法律上の利益を有することが必要であって, 単なる事実上の利益では足りないと解するのが相当である。

イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 被告が発出した本件通達が, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科医師の裁量にゆだねる内容のものであったため, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用が増加し, 歯科技工士の上記法的地位が侵害され, 独占的に業務を受託して報酬を得る地位も脅かされていることから, 上記法的地位の確認を求める利益がある旨主張する。
 しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると, 原告らが上記「法的地位」 及びその 「地位が保全されるべき権利」 と主張するものは, 要するに, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する法律上の紛争の存在を観念し得るものではなく, 仮に被告との間で上記事項を確認したとしても, 原告らの主張に係る危険が, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく直ちに除去されるものでもない以上,上記事項は確認の対象として適切な内容のものとはいえず, 被告との間で上記事項を確認することにつき原告らが主張する利益は, 事実上の利益にとどまり, 法律上の利益に当たるものではないと解されるので, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 確認の利益を欠くものと解するのが相当である。

(3) 以上によれば,本件確認の訴えは,法律上の争訟性を欠き,かつ,確認の利益を欠くものといわざるを得ず, その余の点について判断するまでもなく, 不適法であるというべきである。

3 本件賠償請求の成否(争点(2))について

(l)ア 原告らは,被告が,歯科技工士の資格を有する個々の原告らに対し,歯科技工士法上ないし条理上, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の実態について調査し, その結果に基づいてこれらを止めるように指導すべき義務を負っているにもかかわらず, その調査及び指導を行わず, かえって, 本件通達を発出し, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容しており, これにより,原告らは, 生活基盤である業務独占の崩壊の危険について不安を抱かざるを得ない状況に置かれ, 精神的苦痛を受けている旨主張する。

 イ 国家賠償法1条1項は, 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公 務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務、に解 しで当該国民に損害を加えたときに, 国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものであり, したがって,同項にいう「違法」とは,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいうものと解するのが相当である
(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。

 ウ そこで, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有
無等について検討するに, 前記1において説示したとおり, 歯科技工士法は, 歯科技工の業務の主体を歯科医師及び歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けているが, これは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益を認めているものではなく, 国に対し当該規制に係る措置につき何らかの請求等をし得る権利を認めてぃるものでもない。 したがって, 一般に, 業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果, 歯科技工士法上又は条理上, 所轄行政庁においてその違反の有無について調査し, その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められるとしても, それは, 所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務に当たるものではなく, したがって,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地はないものというべきである。

 エ 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は憲法14条に違反する旨主張するが, 歯科技工の業務独占の規制につき所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務の存在が認められない以上,所論の当否にかかわらず,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地のないことは,上記ウと同様である。

(2)ア また, 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 国民の公衆衛生が害されるおそれがあり, このことも歯科技工士である原告らに精神的苦痛を与えている旨主張する。

イ しかしながら, 上記の事柄は, 原告ら自身の権利又は利益に関わるものではない以上, @このような一般公衆への影響についての抽象的な懸念に係る主観的な感情は, そもそも金銭賠償をもって慰謝すべき損害に当たらないというべきであるし, A上記の事柄を考慮しても, 歯科技工士法において, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益が認められているものではなく, 国に対し業務独占の規制に係る措置につき何らかの請求等をし得る権利が認められているものでもないことに変わりはないから, 上記主張は, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有無に関する上記(1)ウ及びエの判断を左右するものでもない。

 (3) 以上によれば, 本件賠値請求は, その余の点について判斷するまでもなく,理由がないというべきである。

4 よって, 本件訴えのうち, 本件確認の訴えは, いずれも不適法であるから却下することとし, その余の訴えに係る請求は, いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61 条, 65条1項本文を適用して, 主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官 岩 井 伸 晃

裁判官 本 間 健 裕

裁判官 倉 澤 守 春
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2008年09月26日

判決文(PDFファイル)

平成20年9月26日判決言渡  同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(行ウ)第413号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成20年6月20日

以下PDFファイルにて

判決文1.pdf

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報告

控訴決定しました。
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