海外委託問題勉強会
日本歯科技工所協会西支部
平成20年3月24日 於:ニューオーサカホテル
訴訟を起こして歯科技工士を守る会
代 表 脇 本 征 男
全国の歯科技工士81名は、2007(平成19)年6月22日、国を相手方として、東京地方裁判所に対し、歯科技工の海外委託は禁止されるべきであり、それを放置していることは違法であるとして国家賠償訴訟等の訴えを提起しました。
裁判は、これまで4回の口頭弁論が行われました。
この間、国の「答弁書」も先日、2月28日の「準備書面(1)」を含め、2回に亘り提出され、特に先日の内容は、追い詰められた被告のあがきが感じられる屁理屈そのものとしか言いようがなく、いよいよ国の歯科医療業界と国家資格(免許者)に対する本音が暴露されたものとなっております。
原告団と弁護団は強い信頼を元に、戦っているわけですが、特筆すべきは、川上詩朗先生は、歯科医療問題は初めてにも拘らず、歯科技工士のひどい現状を踏まえた問題だけに、いろいろ実情をお知りになるにしたがって激怒され、今までの歯科技工士としての原告たちの力不足も反省させられ、「何とかしなければ」の強い信条で弁護活動を展開して頂いております。
おかげさまで、最近、この訴訟を提起した影響は各方面に波及し、特にマスコミにも大きく取り上げていただき、これを契機に歯科医療の国民に対する真の姿構築に向けて発展していただくことを願ってやみません。
わが国の歯科医師法、歯科技工士法の第一条に
「国民の健康な生活と歯科医療の普及および向上増進に寄与する」ことが定められております。
平成5〜6年頃「大臣告示」の形骸化を日技が自認しはじめた頃から、経済優先、利益追求と思われる歯科補綴物の海外発注が、中国を中心にアジア近国を相手として、違法行為が繰り返えされてきたようであります。
平成11年、衆議院厚労委員会で吉田幸弘議員(歯科医師)が当時の丹羽厚生大臣に対し「海外委託問題」で質問している中で、その時点でのシェアーが補綴物全体の5%だと言明しています。
あれから10年経っている現在でも、国は何の対策も調査も講じておりません。
インターネットに載ったタグの資料を持って、平成15年6月に厚生労働省歯科保健課に確認に行った所、偶然にも課長・課長補佐・技官がおそろいでした。最初は「知らない」・「風評じゃないか」・「情報提供か」等と言われながら相手にしてもらえなかったのであります。
話をしているうちに、「これは(歯科技工士法)国内法だから海外委託は関係ないんだ」・「想定外のことだから」・果ては「自由診療はいいけれど保険はだめだ」。その時「細々とやってる技工所くんだりが何でこんなことに目くじらたてるのか」とまで言われたのであります。
終いには「この問題は刑法が絡んでくる話だ、我々は警察ではない、違法性があるのなら警察へ行ってくれ」・「刑法だ・刑法だ」と何度も繰り返すのです。果たして所管官庁である厚生労働省がこんなことで良いのだろうかと、真実思いました。
現行法は国内法なので、摘発も指導もできないという法解釈らしいのです。
歯科医師が技工業務を指示する相手は、国家の有資格者である歯科医師と歯科技工士しかいないはずであります。医療現場における歯科医師の裁量権の必要性を否定するものではありません。しかし、法律の解釈を捻じ曲げ、冒してはならない法律を犯し、海外の無資格者に歯科技工をさせることは、裁量権の範囲をはるかに悦脱しており、紛れもなく法律違反行為以外の何ものでもないと固く信じております。
また、歯科技工士法の趣旨から言って「輸入補綴物」あるいは「輸入技工物」という言葉をよく聞きますが、厳密には有り得ない言葉だと考えております。
これは違法行為が生み出された変造語であると思います。
歯科技工士法の原点は、「物」の規制ではないということであります。
特定人である患者の、世界に二つとない「医療物」を作製する「行為」そのものの規制する法律なのであります。
歯科医師が技工業務を指示する相手は、「どこの誰に行為をさせるか」が問題であって、店頭に陳列されている物を買ってくることではないのであります。元来、法律が制定される以前は、歯科医師が診療所での業務すべてを自らの権限で、誰にやらせても良し、そして自らも歯科技工も行っていた訳であります。
そして、現在も法的にも、現実にできることにはなっている訳ですが、ただし昭和56年度の歯科医師国家試験実施時から、「補綴の実技試験」が削除されたことは国の考え方として重要なことであります。
つまり、歯科医師として学術的、科学知見、概論と、理論的には学ばれても、現実的には「歯科補綴部門」は、その時点で歯科技工士にすべてを委ねたということが現実にあります。
「非営利の歯科医療」において、その重要な代理行為を、いかに経済優先とは申せ、自らの欲望を満たすためだけに、見ず知らずのそれも海外の無資格者を補助者として、特定人である人体の生態機能とも、臓器ともなり得る歯科補綴物の業務の委託をするなど、医療従事者としての倫理観・道徳観の欠落以外には考えられません。
もしもこの罪業に、歯科技工士が「再委託」「仲介業」等として加担している者がいるとしたら、何をかいわんや、即刻やめていただき、自らの罪の深さを反省し、正規の生き方を考えるべきであります。
国内の無資格者はだめで、海外の無資格者は良いと言う「法」はどこにもないのであります。そんな理不尽がまかり通るのは、一連の悪評高い厚生行政だけであります。国民である患者の保護権利を守ることを回避し、国内の有資格者の業務独占権までも冒涜する許し難い違法行為、これを厚生労働省は容認しているのであります。
当初、司法警察へ相談に行き、係官に資料に基づき説明をしたところ、得られた回答が「限りなく違法性が強い」ということでありました。警察署という地域の窓口ということもありましたが、最も国民、患者に近い常識的な意見が聞かれたものと思っております。
歯科社会の「常識」が、国民、患者にとっての「非常識」であっては、業界が良い笑いものになること必定であります。
昔の「行政監督庁」、現在の「行政評価局」に駆け込み相談してみました。
そこで、お決まりの、課題を羅列し、その解決のために5年、10年とかけながら、会員意識をつなぎとめては、「やってる」「努力中」を連発する日技特有の解決方法では、埒があかないと判断したのであります。
最終的にこの問題の解決は、具体的に行動を起こし、司法に判断を委ねることが最善策と終結し、「告発」「訴訟」に踏み切る決意を堅めたのであります。歯科技工士にとっての基本的問題を、日技は各都道府県技でやって欲しいということで、これは早急に解決しなければ、わが国の国民と歯科技工士にとって大変な事態が発生しかねない問題であると考え、都技は執行部に対策本部まで設置し、厚労省に「申し入れ書」を持参提出し、会見すると共に、ある業者を特定し、警視庁に「刑事告発」したのでありますが、原局の「正式見解を」ということで一時預かりになったのであります。
その後「申し入れ書」の回答のないまま、厚労省から「
17年通達」が発出され、都技の対策本部は、代議員会総会で決められた人事・政策決定権を無視し、理事会で「対策本部解散」を決定したのであります。
そして、「刑事告発」を取り下げ、弁護士も途中解任したのであります。
これからという矢先、事案の成就を放棄し、道半ばにして、会員に大きな損害を負わせたことの責任の取れない状態も、現在の歯科技工士会組織であります。
見聞するところによると、日技は、歯科技工士が実質的に力をつけるには、ラボの大規模化助長と、零細ラボの切捨て統合を画策しているということですが、正にこれは歯科技工業の経済至上主義の何ものでもなく、「大きいことは良いことだ」方式で、地域医療に根差す歯科医療の根幹を揺るがし、個々の歯科技工士の生存権の本質に、影響大なる問題と成りかねないと考えております。
あくまでも歯科技工士法という「法律」の主体は国民・患者であります。
医療従事者はその国民・患者の保護権利を守るために、安心・安全を提供する業務上の義務付けとして様々な法規制が加えられている訳であります。そのため法律の細目に字句的に逐次事項を加える必然性はないのであります。
歯科技工士法が身分法と施設法を具備し、総合的な歯科技工の法律として制定された原点は何であるか、その目的と趣旨を率直に解釈することが賢明なのであります。
「法文に書いていないから」「患者が良いと言ってるから」「安くて良い物だから」ではあまりにも短絡的な解釈であります。
歯科技工士法は正に行政法であり、強行規定であり当然刑罰もあります。
行政法はつまり、当事者の意思いかんにかかわらず適用されるものであります。
当事者本人の意思にまかせる民法上の任意規定とは大きく性質が異なるものであります。
それを管理監督する立場の厚生行政の責務は重大であり、歯科医療現場の歯科医師にすべて自らの責任の丸投げなど、できるはずが無いのであります。
「有資格者」、「国家免許取得者」の重要性、その尊厳を旨として、国民を守る立ち場にたった法解釈をせずに「法に不備がある」「法改正しなくては」などと、現行法を無視する短絡的なことでは本末転倒といわざるを得ません。
患者の保護権利、患者の安心・安全を守るためには、冒していけないことは絶対に冒してはならないのであります。
「歯科技工士法」の原点は、『無資格者は歯科技工行為をやっても、やらせてもいけないのだ』ということであります。国民・患者のために歯科技工士法の趣旨・目的と法理念をしっかり守り、再び法制定以前の、無法状態の業界現場に戻してはならないのであります。
これができてこそ、遅ればせながら今日までの歯科技工士にはなかった、国家の有資格者としての自覚に基く自己主張の始まりとなること自明であります。
様々な社会の格差問題が論じられる昨今でありますが、「法の下の平等」は憲法で保障されているところであります。
又、「法の下の権利は、眠れる者を保護しない」と言う言葉があります。この機会に、歯科技工士法が昭和30年8月16日制定され、同年10月15日施行された、目的、趣旨の意義を「眠らせないように」、その眠れる権利や義務を「揺り醒ます」仕事が、私たちに今課せられていることであると、堅く信じ法廷闘争を展開して参ります。
先日3月15日開催の日技第87回代議員会・平成19年度第2回定時総会に出席してお願いを申し上げてまいりました。
本来であれば日技のやらなければならないことです。
一会員が「個人の立場」で、自らの業界の将来を憂い、真摯に率直に国に意見を具申している姿を考える時、お一人として義憤を覚えない方はおられないと思うのです。
訴えはそれ自身は小さなことですが、戦っている内容と、その結果は、歯科技工士そのものにとどまらず、わが国の歯科医療業界の真の道しるべとなり、もろもろの問題を打破し、国民歯科医療進展に大きな楔を打ちこむものであることを信じてやみません。
何しろ、個人で最後までやり抜く決意ではおりますが、ここまでと同様、皆様方のお力、お助けなくしては何ひとつ成就できません。
国民の皆様にお知りいただく努力は続けて参りますが、まず、当事者であります皆様方に、お願いがございます。
この裁判の機会を逃したら、二度と歯科医療の現況を是正するチャンスはありません。この裁判の中で歯科医療業界のできる限りの不条理、非合理をあからさまにして、それぞれのパーツにおける役割の確立を明確にし、生きがいをもって業を営めるようにしたいと願っております。
少なくても将来の展望が明るく開け、希望のもてる「歯科技工士」にしたいと考えております。
次回公判は、東京地裁第606号法廷で、4月25日(金)AM10:45からです。是非「裁判勝利」のために、国民のために生きる歯科技工士の良心が健在であれという見識を持って、物心両面でのご支援、ご協力を賜りますよう、心からお願いを申し上げます。ご静聴ありがとうございました。
以上
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