平成21年12月1日
参議院議員
桜 井 充 先生 侍史
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歯科医療を守る国民運動推進本部代表 歯科技工士 脇本征男
上 申 書
謹啓 冒頭に、突然の上申書を差し上げる失礼を幾重にもお詫びを申し上げつつ、苦渋の内容にお目通し賜りたく伏してお願いを申し上げます。
私は67才の歯科技工士です。
歯科技工士は、昭和30年に法制化された歯科技工法(平成6年法改正により「歯科技工士法」)により、国家免許取得者としての歯科医療従事者であります。
近年、十数年前より、海外からの歯科技工物の国内流入が目立つようになり、国内の歯科技工士の権利義務が侵害されると共に、国民歯科医療の安心・安全を趣旨・目的として制定された歯科技工士法そのものの形骸化や崩壊の危機に晒されております。
歯科技工士法では、「歯科医師か歯科技工士でなければ業として歯科技工を行ってはならない」とされ、また「歯科医師自ら当該患者に対して行う場合や院内技工室で行う以外は、歯科医師の発行する『指示書』がなければ歯科技工を行ってはならない」とされ、違反者には刑罰が科される定めになっております。
現在、わが国の歯科補綴物の殆どは歯科技工士が賄っているのが現実です。
平成16年度、(社)東京都歯科技工士会(都技)では「遵法・歯科技工の海外委託問題対策本部」を設置し、(社)日本歯科技工士会(日技)と協議の上、「歯科技工の海外委託問題」を解決するための運動を展開して参りました。
法律の恣意的解釈蔓延の渦中、ますますインターネット等で輸出入斡旋業者等の目に余る違法宣伝攻勢が絶えないことから、再三、東京都衛生局及び関係部署に申し入れや会見を行って参りました。
更に、厚生労働省は都技「対策本部」とは直接会見はできないと言うことから、日技の仲介を得、民主党金田誠一衆議院議員の指導を受け厚生労働省歯科保健課と構成メンバー全員で面談し、「歯科技工の海外委託阻止及び行政指導」の申し入れ書を提出しました。即答は得られず、後刻日技を通して回答すると言う約束で引き下がりました。
そして、3ヶ月を経過した頃、都技の代議員会総会が開催され、そこでは対象業者を即「刑事告発」せよとの決議がなされ、依頼弁護士と共に協議し実行しました。
しかし、警視庁では「厚生労働省の正式見解がなければ受理できない」との一言で退けられたのです。違法行為摘発の準備をし、行政評価局の示唆を受け、証拠を添えて法の番人である「警察」に駆け込んだ所、「監督官庁である厚生労働省の考えを聞いてから来るように」では、法治国家における「訴える権利の抑圧」であり、理解できません。
さらに、厚生労働省からは日技を介してという「正式回答」もないまま、平成17年9月8日、厚生労働省医政局歯科保健課長名で、都道府県衛生主管部(局)長宛の通知(「17年通達」)が発出されたのです。
都技対策本部が会見に臨んでから6ヶ月後のことでした。
要旨は、「散見される海外で作成の歯科補綴物は、有資格者でない者の作成ではない、あるいは、どんな材料で作成されているのかの危惧はあるものの、歯科医師が掲載された7項目の注意事項を守り、患者の理解を得られれば可能」というものでした。
仲介業者の在る地域の(社)歯科医師会の役員と協議を持ち、歯科医師の感想と考え方を確認した結果、全員の先生方が「通達内容は法律違反である。厚生労働省の責任回避であり、歯科医師への責任転嫁以外の何ものでもない。」という結論に終始しました。
しかし、日本歯科医師会(日歯)と日技は内容追認の会員指導をしただけでした。
個人の歯科医師、歯科技工士の意見を聞くと、誰もが「おかしい」と言う回答が返ってくるのですが、官僚亜流の「組織」になると構成員の基本的人権や、業の基本である法律までが行政の仰せの通りとされ、無視されてしまうのは解せません。
唯一、相談にのって頂いていた衆議院議員金田誠一先生も、「行政の誤判もさることながら、立法にも責任がある。」とはっきり明言され、数度にわたり議員会館に官僚を招聘され、解決策を検討協議頂いていた折衝半ばにして、突然病魔に倒れられたのは、返す返すも残念至極であります。
その頃から、にわかに魑魅魍魎とした流れになり、都技の対策本部は、代議員会総会で決議された意思決定機関を、突然一理事会の決議のみで「解散」されたのです。
理由は、「日技がやると言っている。後は執行部がやる。予算がない。」でした。
しかし、業を行う上で基本法が侵され、その上、国民の安心・安全のための歯科技工士制度の維持・充実・発展は望めず、「業界組織」が背を向けた現実、個人の資格で訴えられないものか検討協議を重ねた結果、意志に共鳴し共闘してもらえる弁護士に巡り会え、また全国から歯科技工士80名が原告に名乗り出られ、訴訟費用は全て原告団の持ち出しと寄付金で賄うことを衆議一決し、訴訟を提起することに決したのです。
請求の趣旨は、
1 被告は、原告らには海外委託による歯科技工が禁止されることにより、歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認する。
2 被告は、原告脇本征男外原告目録記載の各原告に対し、各100万円の内金10万円及びこれに対する本訴状送達後支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項及び同3項につき仮執行宣言。
これに対し、一審判決では、
主文
1 原告らの本件確認の訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
本判決は、歯科技工の海外委託の実態に何ら言及することなく、法律上の利益及び確認の利益がないという、いわゆる入り口論で確認の訴えを却下すると共に、国は、個々の歯科技工士に対して職務上の法的義務を負担していないとの理由で、損害賠償請求も棄却するという不当な判決でした。
原告らは、本判決を不服としてただちに東京高等裁判所に控訴すると共に、本判決を機に、国民の安全な歯科治療の実現のために不可欠な歯科技工士制度を維持・充実・発展させる見地から、歯科技工の海外委託問題を最終的に解決するために最後まで戦い抜く決意を再確認したのです。
これまで、訴訟を提起することによって、国の答弁からその考えが徐々に分かってきました。私たちは、歯科技工士法によって歯科技工の海外委託は許されないと考えていました。「日本で許されないことが、海外においてどうして許される理屈はどこにあるのか」。国の答弁では、「歯科医師の裁量権」の範囲で、歯科医師が自由に委託先を選べるというのが国の考えであることが分かりました。その上、個々の海外委託に関して行政は一切関知せず、歯科医師が安全な所を選んで責任を持てということなのです。
国は、時限を、法制定以前に逆行させた感は否めず、茫然自失、言を失しました。
法制定以来半世紀を過ぎた現在まで、教育現場で蕩々と業務独占と、歯科医師の代理人としての重要性を教育し、少なからず呉越同舟、同じ「木船」に乗って歯科医療従事者としての国家資格に自覚と確信を抱いて業を成して来ましたが、なぜに今ここに至って「泥船」に乗遷させられねばならないのか全く理解ができません。
第三回控訴審弁論の開催時、「結審」を覚悟していた原告側は一抹の空虚感で開廷を待っていたところ、突然裁判長から「上の階で進行協議を行いたいと思いますので時間はよろしいでしょうか」という言葉があったのです。
進行協議の冒頭、双方の前で裁判長が「今までの資料をいろいろ読ませて頂いた結果、歯科技工の海外委託問題には問題点があります」。また「国民の安全を守ると言う点は厚生労働省も同じでしょう」。とも言ったのです。
「このまま判決で済ませるには忍びない。法を抜きにして、何か解決に導く方法は無いものか協議したいと思います。ご協力願えませんか」。
そこで求められ、原告側は法廷外に専門検討機関の設置を提案したのです。その構成メンバーは、有識者、歯科医療関係者(日歯、日技等)、国民の声を代表して消費者関係団体の代表者等としたのです。
都合3回の協議の末、結局、国側は「訴訟上でも外でも約束には一切応じられない」。という態度を変えず、裁判所の意思仲介も不作に終わり、8月5日、何の前触れもなく裁判長が交代され、結審とされたのです。
審理中に、民主党小澤鋭仁議員、近藤昭一議員を中心とする歯科部会の先生方が厚生労働省のしかるべき役職の方々とレクチャーして頂いた折り、「しかるべき業界団体が申し出てきたら応じないでもない」。又進行協議の中でも裁判官に対し、同趣旨の発言があったと言うことで、日歯、日技に極力お願いしたのですが、「係争中の個人訴訟には関与しない」の一点張りで、話し合いにも応じてもらえませんでした。
そこで、全国の47都道府県技会長に実情を説明しお願いをしたところ、1都36県技から「日技は進行協議に応じ厚生労働省に申し入れすべし」という賛同意見書を頂戴し、それをもとにその旨申し出たのですが、一蹴されました
また、任意の歯科医療関係団体、保団連を筆頭に7団体からも賛同が得られました。
さらに、国民の立場から各自治体の国に対する「意見書」採択が、40府県市町村にも及び、(人口、22,211,579人・10月末現在)国民の2割に近い方々が、早期問題解決を切望しているのです。また、「支援者名簿」(21,151筆)は、上申書を添えて東京高等裁判所に提出させて頂きました。
また、この問題に関して国会議員のご活躍を列記致しますと、参議院議員桜井充議員、大久保勉議員、小池晃議員、衆議院議員仙石由人議員、金田誠一議員の方々にご奮闘賜って参りました。衷心より満腔の敬意と感謝を申し上げます。
10月14日、控訴審判決が言い渡されました。
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
なんと、わずか20秒の冷酷な判決に、想定内とは申せ「歯科技工士」としての悲哀を痛感した一瞬でした。あの「原告方の主張は間違っていない」との見解を露わにして思いをくみ取ってくれた裁判長の意思表現は何だったのか、そして社会の冷たさは知り尽くしているつもりでも、余りにも無情な判決に唖然としました。
さらに、一審同様、何ら海外委託の実態を踏まえることなく、単に形式的かつ限定的に判断したものであり、司法の責任を放棄したものでありました。
また、8月5日の結審にのぞみ、準備書面にて追加意見を提出した「憲法14条違反」に就いては一切触れられておりません。まさにこのことこそ、憲法の下で制定された「歯科技工士法」の精神を冒涜するものであり、国民の安心・安全をないがしろにした司法の判断に強く抗議するものであります。
私たちは、本判決に強く抗議するとともに、歯科技工士の法的地位の確立と国民の安心・安全な歯科治療実現のために、上告することを決し手続きを完了しました。
しかし、冷徹な歯科技工の海外委託は非情にも続けられているのは事実です。
私たちは歯科技工士として、憲法25条のもと衛生行政に位置づけられ、国民の歯科治
療に貢献する立場を認識し、歯科技工士法を遵守するとともに、日夜研鑽を怠らないよう心して業に就いて参りました。
現状の業界は、決して円満無垢な体ではありません。しかし、これまで長きに亘って冷や飯を喰わされても、自立心の欠落の下、何ら自己反省もなく、世の中の不況感や政治や社会、そして相手方のせいばかりに責任転嫁し、本質的な問題解決を先送りと共に回避し、官僚依存と癒着態勢の愚大政治に傾倒し続けてきたつけが、政権交代とともに露呈されたに過ぎないと考えます。
残念ながら、なるべくして自ら招いた当然の結果と考えております。
今後は上意下達を廃し、地域現場で血涙を流しながら業を成している「歯科技工士」の真摯な、声と、行動で、の業界形成が求められます。
そのためには歯科技工士ひとり一人が、何でも他人任せにせず、法を遵守し、自覚と責任をもって業に当たらなければなりません。
特筆すべきは、歯科技工物は単なる「物」ではなく、世界に二つと無い、人体の生体機能として人工臓器ともなり得、人の生命に不可欠の重大な役目を担う「もの」であるということです。
貴職には、この「歯科技工の海外委託問題」が果たして行政による法律の誤判によると思われる作為的「通達」発出に委ねられている現状が妥当なのか、又、現在まで立法としての責任はなかったのか、徹底的にご検証の上、早急に解決策を講じて頂くよう切にお願い申し上げます。
謹白
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